幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

「美葉が地方の大学に行くって知って、すごくショック受けた。隣にいるのが当たり前だったから、美葉のいない生活なんて考えられなくてさ」
「洸……」

 私も、地元を離れるのは寂しい気持ちもあった。でも、私の進学先には麻酔の第一人者と言われている教授がいて、どうしてもその先生のもとで勉強がしたくて、東京を離れることを選んだ。洸だって、もちろんそれは知っている。

「だから、卒業前に告白するかどうか、すごく悩んだよ。好きだって言いたいけど、幼なじみの関係を壊すのも嫌だと思って」
「……え」

 水槽の前で、ぽかんと洸を見上げる。

 今、さりげなくすごく重要なことを言わなかった……?

「やっぱり、気づいてなかったのか」

 苦笑した彼が、私の手を握り直して別の水槽へと向かう。しかし、私は少し遅れてやってきたドキドキのせいで、魚を見るどころではない。

 も、もう少し解説が欲しいんだけど……!

「でも、そんな時に偶然聞いちゃったんだ。美葉は俺のことを弟みたいにしか思ってなくて、兄貴みたいな男の方が好みだって。正直、結構絶望したよ」

 次にやってきたのは、大型のサメやエイ、キラキラと銀色に光るイワシの群れなどが悠々と泳ぐ巨大水槽の前。

 遠い目をして水槽を眺める洸はなんだか切なそうだけれど、正直なところ、私は自分がそんな発言をしたなんてすっかり忘れていた。

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