私の理想の王子様
「じゃあ、お疲れさまでした」

「田野倉さん、気をつけて帰ってね!」

 間宮に男装メイクをしてもらい、夢見心地で百貨店を後にした朝子は、大通りのウインドウに映る自分の姿をそっと眺める。

 そこには普段の朝子とは全く別人の姿が映し出されていた。


 男装メイクが完成した時、間宮を含め店舗スタッフは黄色い歓声を上げるほどの絶賛ぶりだった。

「どうしよう、惚れちゃうよ! 田野倉さん」

 きゃぴきゃぴと周りで騒がれ、気分を良くした朝子は、ピシッとジャケットの襟を正してみる。

 すると再びキャーという悲鳴が上がった。

 朝子はメイク台の前に立つと、まじまじと自分の顔を見つめる。

(本当に、王子様みたい……)

 鏡の中の自分は、まさに漫画の世界から飛び出して来たヒーローのように、中性的な美しさと自信を兼ね備えた顔をしている。

 そこには、小柄な可愛らしい女性の中で、目立たないように背中を丸める朝子の姿は微塵も感じなかった。

 そして朝子は、うっとりと自分を見つめる皆に見送られながら店舗を後にしたのだ。


 日の暮れた街並みを駅へと向かいながら、朝子はさっきから自分がチラチラと見られていることに気がつく。
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