私の理想の王子様
「あの人、めちゃくちゃカッコ良くない?」

「王子様みたいだったよね」

 通りすがりの女性たちから、そんな声が漏れ聞こえてくる。

 芸能人と勘違いしたのか、時には朝子にスマートフォンを向ける人までいた。

 朝子は足を止めると、再びウインドウに映る自分の姿をまじまじと見つめる。


(現実に理想の王子様なんていない。だったら、私がみんなの理想の王子様になればいいじゃない!)

 そう思った途端、新しい扉が開かれるように、目の前がキラキラと輝いて見えてくる。

 朝子は顔を上げると、颯爽と風を切るように足を踏み出した。

 テレビで見た俳優さんのように、背すじを真っすぐに延ばしながら歩道を進む。

 途中、自分を見つめる女性に軽くほほ笑みを流すと、悲鳴にも似た声が漏れ聞こえた。

 朝子は自分が高揚感で満たされるのを感じながら、駅の改札をぬけるとホームに向かって階段を上った。


(どうしよう。すごく楽しい……)

 人から見られることが、こんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。

 もしかしたら自分は、本当に王子様なのではないだろうか。

 朝子がそんなことを思った時、目の前で階段に立ちすくんでいた女性が、わずかにふらつく姿が目に入る。

 不思議に思って首を傾げた瞬間、女性がぐらりと揺れるのが見え、朝子は咄嗟に両手を差し出したのだ。
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