私の理想の王子様
 朝子はしばらく目を閉じると、息を整えてからゆっくりと口を開いた。

「実は彼とは男装メイクの姿で出会ったんです」

「えっ? じゃあ初めは同性だと思われていたということですか!?」

 江口の驚いたような声に、朝子は小さく肩を揺らす。

「実はそれがよくわからなくて」

「よくわからない? と言うと?」

「彼は最初からずっと変わらないんですよね。普段の私も男装メイクをした私も、どちらの姿の時も変わらずに接してくれる人だったんです。私はそれがすごく不思議で。でも、しばらくして気がついたんです。この人は私の見た目じゃなく、私の内面にある本質を見てくれる人なんだなって」

 朝子は遠くを見つめるように顔を上げる。

 すると「すごく素敵ですね」という声が聞こえてる。

 朝子はくすりと肩を揺らすと静かにうなずいた。


「これはきっと男装メイクの姿で出会わなければ、気がつけなかったことだと思うんです。だからそれだけでも、私にとって男装メイクをしたことは、とても価値のある経験だったと思ってます」

 しみじみと声を出す朝子に、江口が納得したような顔をする。

「だから田野倉さんにとって男装メイクというのは特別なものなんですね」

「そうですね」

 話をしながら、朝子の瞼に須藤の笑顔が映る。

 自分は須藤の存在があるからこそ、こうやって前に進んで行けるのだと思った。
< 129 / 147 >

この作品をシェア

pagetop