私の理想の王子様
(やっぱり王子様はこうでなきゃね。現実の男じゃあり得ないわ)

 ほうと熱のこもった息を吐いた朝子は、ふと自分がリアルで恋をしたのはいつだったのだろうと考える。

 地元の大学を出て、化粧品会社ボウ・ボーテの総務部に入社して五年。

 社員の九割が女性という今の職場は、当然のごとく素敵な男性との出会いは皆無だ。

 興味本位で参加した合コンでも、リアルな男性に魅力を感じず、もっぱらキュンキュンするのは漫画の中のヒーローのみという生活。

 学生の頃には確かに彼氏はいたが、就職を機に自然消滅してしまったから、もうかれこれ五年は恋をしていない計算になる。


(だって理想の王子様なんて、二次元の世界にしかいないんだもん)

 そう小さく息をついた朝子は、ページをめくった瞬間、目を見開いて画面にかじりついた。

 スマートフォンの画面の中では、ついにヒロインとヒーローが両想いになり、夜景の綺麗な展望台で二人の恋心は天まで上りつめているではないか。
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