私の理想の王子様
(うおぉ……バックハグからの顎クイ、そして濃厚キッス……)

 危うく白目をむいて昇天しかけた朝子は、駅名を告げるアナウンスにはっと我に返る。

 気がつけばここは朝子が降りる駅だ。


「す、すみません。降ります!」

 ガタンと立ち上がった朝子は、膝に置いていた鞄を慌てて掴むと、多くの人で混み合った車内をドアへと向かう。

 すると人をかき分けていた朝子の肩を、誰かがポンポンと軽く叩いた。


「これ、落としましたよ」

 その声に顔を上げた朝子は、目の前に飛び込んできたスーツ姿のイケメンにドキュンと心臓を撃ち抜かれる。

 さっきまで読んでいた漫画のヒーローが、飛び出して来たかと思うほどのイケメンは、朝子と目が合うとにっこりとほほ笑んだ。

「どうぞ」

 見ると手渡されたのは朝子のスマートフォンだ。

 慌てて鞄を掴んで立ち上がった時に、床に落としてしまったのだろう。


「あ、ありがとうございます……」

 笑顔のイケメンに、朝子は夢見心地で声を出す。

 女性の中では背が高いほうの朝子が見上げるくらいだから、このイケメンはきっと身長180cm以上はあるのだろう。
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