私の理想の王子様
 切れ長の目に薄い唇、真っすぐに通った鼻筋という、王子様のテンプレみたいな人である。

 するとイケメンは、柔らかそうな少し長めの前髪をくすりと揺らすと、のぼせた朝子の耳元にそっと顔を寄せた。


「画面が開いたままだったので、閉じておきましたよ」

「へ?」

 イケメンはウインクしながらそう言うと、何事もなかったかのようにスッと朝子に背を向ける。

 あまりにもスマートなイケメンの対応に、ぽーっとしたまま電車を降りた朝子は、ホームでスマートフォンの画面を表示させて絶句した。

 画面いっぱいに大写しになっているのは、あの濃厚キッスだ。


「くぅ……あのイケメン、絶対にこの画面見たでしょう!?」

 朝子はわなわなとスマートフォンを持った手を震わせると、もう既に走り去って遠く小さくなった電車のテールライトを睨みつける。

 あんなにスマートな対応ができるのだから、余計な一言を言わなければ良いものを。


「だからリアルに王子様なんていないのよ!」

 朝子は、ふんっと鼻を鳴らすと、会社へと向かって改札をぬけたのだ。
< 4 / 147 >

この作品をシェア

pagetop