私の理想の王子様
「あの、朝哉さん。一つ質問してもいいですか?」

 すると小さく息をついた朝子の隣で、ミチルが小さく声を出す。

「どうしました?」

 朝子が不思議そうに顔を向けると、ミチルはやや紅潮した頬を上げた。

「あの、朝哉さんって……恋人とかいるのかなぁって……」

「え……」

 ミチルの声に、朝子は一瞬息を止める。

 朝子はまじまじとミチルの顔を見つめた。

 息を殺すように返事を待つミチルの顔つきは、恋をしている女性の顔つきにも見える。


(まさか、ミチルさんって、朝哉のこと……?)

 朝子はうろたえた様に視線を泳がすと、慌ててミチルから目線を逸らそうとした。

 するとミチルが慌てたように大きく両手を振る。

「あの、深い意味はないんです! ただ、どうなのかなぁって思っただけで……」

 ミチルは取り繕うようにてへへと肩をすくめると、慌てて手に持っていた桃のチューハイの缶をグイっと傾けた。

 朝子はそんなミチルの横顔をそっと伺う。


 男装メイクは、朝子にとっては理想の王子様になるための、いわばファッションの一つだ。

 憧れの王子様が目の前に現れて、みんなが喜んでくれればそれでいい。

 だからこそ、この姿で深く人と関わることなんて、朝子にとってはあり得ないことだった。
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