私の理想の王子様
(普通に、王子様として答えればいいのよ)

 朝子がそう自分にうなずいた時、ふと須藤の言葉が脳裏をよぎる。

『いつか君に真剣に恋をして、恋愛関係を迫る人が出てきたら、君はどうするの?』

 もしかしたらあれは、ミチルのことを見越した、須藤からの忠告だったのだろうか?

 朝子はしばらく逡巡するように口を閉ざす。

 でも今ここで急に態度を変えれば、朝哉を王子様だと思ってくれているミチルを、裏切ることになってしまうだろう。

(それにミチルさんは、深い意味はないって言ってたじゃない……)

 朝子はしばらく躊躇ったのち、自分自身を納得させると、にっこりと王子様の笑顔を見せる。


「恋人はいませんよ」

 その言葉を聞いた途端、ミチルはわかりやすくパッと瞳を輝かせた。

「そうなんですね! 私も一緒ですよぉ! あ、私、飲み物取ってきます!」

 ミチルは早口で一気にそう言うと、スキップでもするように駆け出して行く。

(大丈夫だよね?)

 朝子は小さく息をつくと、近くに置いてあったデッキチェアに腰かけた。

「まさか、朝哉に恋するわけがないよね?」

 他の参加者と「きゃあきゃあ」と笑っているミチルを見つめながら、朝子は再び自分に言い聞かせる。

 そう小さくつぶやく朝子の横顔を、須藤が見ていることにも気がつかずに。
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