私の理想の王子様
トラブル発生
「あぁもう……ほんっと最悪」
会社が入るオフィスビルのエントランスを、ローヒールの靴をどすどすと鳴らしながら歩く。
すると「おはよう」と後ろから声をかけられた。
振り返ると笑顔で手を振っているのは、先輩の佐伯由美だ。
「やっぱり朝子ちゃんのパンツスタイルってカッコいいわぁ」
由美は惚れ惚れするようにそう言うと、ジャケットの裾をなびかせながら朝子の隣に立った。
「おはようございます、由美さん」
朝子が照れながら会釈すると、由美はキリッとした目を朝子の前に覗き込ませる。
「ねぇ、やっぱりBAの研修受けてみたら? 朝子ちゃんって人目を惹くのよねぇ。絶対に現場向きだと思うんだけど」
下からじっと見つめられ、朝子はドギマギと目線を泳がせてしまう。
百貨店事業部で営業を担当する由美は、以前から何かというと朝子に店舗でお客様にメイクをするBAを勧めてくる。
でも総務部に配属されて以降、事務一筋で働いてきた朝子には、華やかな百貨店で働くBAに自分がなるなど、恐れ多くて考えることもできなかった。
「私なんて、単に背が高いだけですから」
朝子は大袈裟に顔の前で両手を振る。
「そうかなぁ。絶対バッチリメイクしたら、カッコイイと思うんだよねぇ」
由美は心底残念そうな顔をすると、他の同僚と一緒に到着したエレベーターに乗り込んだ。
その背中に続きながら、朝子はそっと自分の姿に目をやる。
朝子は子供の頃から背の高い自分が嫌いだった。
だって少女漫画のヒロインは、いつだって小さくて可愛い女の子だからだ。
ヒーローに後ろから抱きしめられて、すっぽり収まるあのサイズ感……。
(私には永遠に経験できないな)
朝子は自嘲気味に息を吐くと、エレベーターを降りて自分のデスクへと向かった。
会社が入るオフィスビルのエントランスを、ローヒールの靴をどすどすと鳴らしながら歩く。
すると「おはよう」と後ろから声をかけられた。
振り返ると笑顔で手を振っているのは、先輩の佐伯由美だ。
「やっぱり朝子ちゃんのパンツスタイルってカッコいいわぁ」
由美は惚れ惚れするようにそう言うと、ジャケットの裾をなびかせながら朝子の隣に立った。
「おはようございます、由美さん」
朝子が照れながら会釈すると、由美はキリッとした目を朝子の前に覗き込ませる。
「ねぇ、やっぱりBAの研修受けてみたら? 朝子ちゃんって人目を惹くのよねぇ。絶対に現場向きだと思うんだけど」
下からじっと見つめられ、朝子はドギマギと目線を泳がせてしまう。
百貨店事業部で営業を担当する由美は、以前から何かというと朝子に店舗でお客様にメイクをするBAを勧めてくる。
でも総務部に配属されて以降、事務一筋で働いてきた朝子には、華やかな百貨店で働くBAに自分がなるなど、恐れ多くて考えることもできなかった。
「私なんて、単に背が高いだけですから」
朝子は大袈裟に顔の前で両手を振る。
「そうかなぁ。絶対バッチリメイクしたら、カッコイイと思うんだよねぇ」
由美は心底残念そうな顔をすると、他の同僚と一緒に到着したエレベーターに乗り込んだ。
その背中に続きながら、朝子はそっと自分の姿に目をやる。
朝子は子供の頃から背の高い自分が嫌いだった。
だって少女漫画のヒロインは、いつだって小さくて可愛い女の子だからだ。
ヒーローに後ろから抱きしめられて、すっぽり収まるあのサイズ感……。
(私には永遠に経験できないな)
朝子は自嘲気味に息を吐くと、エレベーターを降りて自分のデスクへと向かった。