私の理想の王子様

王子様への扉

 会社を出た朝子は、まず一番近くの百貨店に入っている店舗に寄り、ノベルティを預かった。

 どうも今回のノベルティはバニティポーチのようだ。

「これはきっと人気になるだろうな」

 朝子は袋いっぱいに詰まったノベルティを抱えると、再び電車で移動する。

 ようやく目的の百貨店に着いたのは、夕方も過ぎた頃だった。


 一旦、入り口に着いた朝子は、黒のジャケットを羽織って身なりを整える。

 そっと店舗のブースを覗くと、今はお客様はおらず、BA主任の間宮香(まみやかおり)の顔が見えた。

 間宮は朝子よりも年上のベテランのBAで、何度か本社でも顔を合わせたことがある。

「間宮さん、お疲れ様です。ノベルティ持ってきました」

 朝子が遠慮がちに声をかけると、間宮は商品を補充していた手を止めて、パッと人懐っこい笑顔を見せた。

 その顔に安心した朝子は、ノベルティの入った袋を間宮に手渡す。


「うちの発注ミスのせいで、お手数かけちゃって本当にすみません」

 深々と頭を下げる間宮に、朝子は「とんでもない」と顔の前で両手を振った。

「このまま直帰していいって言われてるんで、私もちょっとラッキーでした」

 くすりと肩を揺らしながら、朝子は店内をぐるりと見渡す。

 普段は本社で働いているため、実際の店舗に足を踏み入れたことは数回しかない。

 元々メイクに疎いこともあり、百貨店の化粧品カウンター自体敷居が高いこともあるが、久しぶりに来た店舗にはキラキラとした夢がつまっている気がした。
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