無駄を嫌う御曹司とかわいげのない秘書の契約結婚
すると、どうしてか大和が慌てたように顔を仰け反らせた。距離の近さを不快に思ったのかもしれないが、避けるように体を引くのは失礼ではないだろうか。
多少、失礼な言葉くらい許容できるが、近づかれるのは許容できないのか。
千尋だって近づきたくて近づいたわけではないのに、避けられるとムッとしてしまう。
(契約だってバレたらどうするの?)
すると大和は、千尋の方を見ないまま「大丈夫だ」と小さく言った。両親と兄を見ると、料理の準備をしていてこちらには気づいていない。
「千尋~お皿持っていって。あとお箸も」
千尋が胸を撫で下ろし椅子を引くと、母の呼ぶ声が聞こえてくる。
「ねぇ、ちょっとお母さん、張り切りすぎじゃない?」
母の右隣に立って言うと、隣で準備を手伝っていた真人が口を挟んできた。
「父さんもだけど、千尋が結婚するって聞いて嬉しいんだよ。父さんなんて、千尋が出かけてからファッションショーしてたぞ」
「え~なにそれ! お父さんのその格好、いつもと変わってないじゃない」
父は今日も母がプレゼントしたセーターを着ている。休日はほとんど同じ格好だ。
「それ、クリスマスプレゼントに母さんが新しく編んだセーターだってさ。ほら、父さんさ、気に入ると同じ服ばかり着るだろ。だから父さんの好きな柄と色で同じのを編んだらしい」
「本当だ。よく見ると新品ね。お母さん、相変わらず上手よね。私もマフラー欲しい」
「今度、あなたたちのも編んでおくわよ」
「え~いいの? ありがとう、お母さん」
「俺、紺のマフラーがいいな」
「はいはい」
テーブルに皿を運んだり、箸を持っていったりしながら母と話をしていると、興味深そうに大和がこちらを見ていた。
「大和さん、放置でごめんなさい」
大和の顔がどことなく不安そうな、所在なげに見えたため、千尋は謝った。
「いや、問題ない」
千尋は大和の前に小皿を置く。大和以外の全員が立ってバタバタしていれば落ち着かないだろう。母に目で合図を送ると、頷きが返される。
「もうこっちは大丈夫だから、千尋は大和さんと座ってていいわよ」
「うん、わかった」
千尋は大和の隣の椅子を引き、腰を下ろした。
すると兄がやって来て、全員分のグラスにお茶を注ぐ。
「大和さんもお茶で大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとうございます」
「千尋はよくあなたの家に行ってご飯を作ってたでしょう? 千尋の料理は母さんの味だから、食べ慣れてるんじゃないかと思いますよ。千尋の肉じゃがコロッケ食べたことあります? 案外うまいんだよな~」
真人はテーブルに置かれたコロッケを指差して言った。
コロッケは昨夜の肉じゃがのあまりを潰して、挽き肉を足して衣をつけて揚げたもの。千尋はこのコロッケが好きで、母の手伝いでしょっちゅう作っていた。
しかし、兄の話は秀旭とのことだ。大和が千尋の料理を知るはずもない。なんとか誤魔化そうと千尋は額に汗を滲ませながら口を開く。
「大和さんには肉じゃがコロッケなんて食べさせたことないから……っ」
「そうなのか?」
兄はきょとんとした顔で首を傾げた。
じゃあ、どんな料理が好きなのかと聞かれても、大和は答えられない。
料理から話をずらそうと思うが、慌てるあまり咄嗟に機転を利かせられず言い淀んでしまう。
「どうした千尋、落ち着きないなぁ」
兄が不審げに眉を寄せると、大和が口を挟んだ。
「じゃあ、今度はコロッケを作ってくれるか? 食べてみたい」
「は、はいっ! ぜひ! あ、まずはお母さんの食べてみてください。味が染みていておいしいんですよ」
あははと乾いた笑いを漏らしながら、大和の皿にコロッケを取り分けた。
ついでにサラダも端に取っておく。ひとつ会話をするごとに千尋は緊張で慌ててしまうが、大和の態度は取り繕ったものでありながらも如才ない。
千尋の慌てっぷりを見るに見かねたのか、今度は大和が千尋の耳に顔を寄せてきた。
「千尋、慌てすぎだろう。緊張してるのはわかるが、いつも通りにしてくれ」
両親たちに聞かれてもいいような言葉を選んでくれているとわかるが、暗に〝しっかりしろ〟と言われている気がして背筋がぴんと伸びる。
(耳元で喋られると、くすぐったい……っ!)
しかも、先程自分も同じようにしたのに、それを棚に上げて気恥ずかしさに襲われる。
大和の息がかかると耳が熱くてたまらない。すぐそばで聞こえる低い声は、聞き慣れたものなのに、いつもと違う響きを持って伝わってきた。
耳を押さえて赤ら顔で大和を睨むと、こちらを注視していた両親と兄がにやにやと笑っている。
「距離のある話し方だから心配してたけど、ちゃんと恋人なのねぇ。安心したわ」
「大和さん、めちゃくちゃイケメンだし、男なのに色気ありますよね。千尋が惚れるのもわかるっていうか」
多少、失礼な言葉くらい許容できるが、近づかれるのは許容できないのか。
千尋だって近づきたくて近づいたわけではないのに、避けられるとムッとしてしまう。
(契約だってバレたらどうするの?)
すると大和は、千尋の方を見ないまま「大丈夫だ」と小さく言った。両親と兄を見ると、料理の準備をしていてこちらには気づいていない。
「千尋~お皿持っていって。あとお箸も」
千尋が胸を撫で下ろし椅子を引くと、母の呼ぶ声が聞こえてくる。
「ねぇ、ちょっとお母さん、張り切りすぎじゃない?」
母の右隣に立って言うと、隣で準備を手伝っていた真人が口を挟んできた。
「父さんもだけど、千尋が結婚するって聞いて嬉しいんだよ。父さんなんて、千尋が出かけてからファッションショーしてたぞ」
「え~なにそれ! お父さんのその格好、いつもと変わってないじゃない」
父は今日も母がプレゼントしたセーターを着ている。休日はほとんど同じ格好だ。
「それ、クリスマスプレゼントに母さんが新しく編んだセーターだってさ。ほら、父さんさ、気に入ると同じ服ばかり着るだろ。だから父さんの好きな柄と色で同じのを編んだらしい」
「本当だ。よく見ると新品ね。お母さん、相変わらず上手よね。私もマフラー欲しい」
「今度、あなたたちのも編んでおくわよ」
「え~いいの? ありがとう、お母さん」
「俺、紺のマフラーがいいな」
「はいはい」
テーブルに皿を運んだり、箸を持っていったりしながら母と話をしていると、興味深そうに大和がこちらを見ていた。
「大和さん、放置でごめんなさい」
大和の顔がどことなく不安そうな、所在なげに見えたため、千尋は謝った。
「いや、問題ない」
千尋は大和の前に小皿を置く。大和以外の全員が立ってバタバタしていれば落ち着かないだろう。母に目で合図を送ると、頷きが返される。
「もうこっちは大丈夫だから、千尋は大和さんと座ってていいわよ」
「うん、わかった」
千尋は大和の隣の椅子を引き、腰を下ろした。
すると兄がやって来て、全員分のグラスにお茶を注ぐ。
「大和さんもお茶で大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとうございます」
「千尋はよくあなたの家に行ってご飯を作ってたでしょう? 千尋の料理は母さんの味だから、食べ慣れてるんじゃないかと思いますよ。千尋の肉じゃがコロッケ食べたことあります? 案外うまいんだよな~」
真人はテーブルに置かれたコロッケを指差して言った。
コロッケは昨夜の肉じゃがのあまりを潰して、挽き肉を足して衣をつけて揚げたもの。千尋はこのコロッケが好きで、母の手伝いでしょっちゅう作っていた。
しかし、兄の話は秀旭とのことだ。大和が千尋の料理を知るはずもない。なんとか誤魔化そうと千尋は額に汗を滲ませながら口を開く。
「大和さんには肉じゃがコロッケなんて食べさせたことないから……っ」
「そうなのか?」
兄はきょとんとした顔で首を傾げた。
じゃあ、どんな料理が好きなのかと聞かれても、大和は答えられない。
料理から話をずらそうと思うが、慌てるあまり咄嗟に機転を利かせられず言い淀んでしまう。
「どうした千尋、落ち着きないなぁ」
兄が不審げに眉を寄せると、大和が口を挟んだ。
「じゃあ、今度はコロッケを作ってくれるか? 食べてみたい」
「は、はいっ! ぜひ! あ、まずはお母さんの食べてみてください。味が染みていておいしいんですよ」
あははと乾いた笑いを漏らしながら、大和の皿にコロッケを取り分けた。
ついでにサラダも端に取っておく。ひとつ会話をするごとに千尋は緊張で慌ててしまうが、大和の態度は取り繕ったものでありながらも如才ない。
千尋の慌てっぷりを見るに見かねたのか、今度は大和が千尋の耳に顔を寄せてきた。
「千尋、慌てすぎだろう。緊張してるのはわかるが、いつも通りにしてくれ」
両親たちに聞かれてもいいような言葉を選んでくれているとわかるが、暗に〝しっかりしろ〟と言われている気がして背筋がぴんと伸びる。
(耳元で喋られると、くすぐったい……っ!)
しかも、先程自分も同じようにしたのに、それを棚に上げて気恥ずかしさに襲われる。
大和の息がかかると耳が熱くてたまらない。すぐそばで聞こえる低い声は、聞き慣れたものなのに、いつもと違う響きを持って伝わってきた。
耳を押さえて赤ら顔で大和を睨むと、こちらを注視していた両親と兄がにやにやと笑っている。
「距離のある話し方だから心配してたけど、ちゃんと恋人なのねぇ。安心したわ」
「大和さん、めちゃくちゃイケメンだし、男なのに色気ありますよね。千尋が惚れるのもわかるっていうか」