無駄を嫌う御曹司とかわいげのない秘書の契約結婚
清水は目の前のテーブルに置かれたステーキに舌鼓を打ちながら、和やかな笑みを浮かべて徳利を大和へ向けた。
「ありがとうございます。これからは我が社の発展のためにも、妻と二人三脚で精進していきたいと思います」
「玖代不動産が発展するのは大いにけっこうだが、仕事ばかりではいかんよ。遅くまで飲み歩くのもな。うちの奥さんも怖いんだ」
清水は笑いながら大和に酌をすると、次に千尋にも徳利を向けた。社長は大の日本酒好きで、空いた徳利が何本になるかはすでに数え切れない。
「いただきます」
千尋も酌を受けて、日本酒を口に含む。
「会長……そろそろお時間では?」
お猪口の酒を一気に飲んだ大和が、腕時計に目を走らせて言った。
そう遅くない時間だが、清水の秘書からは泥酔する前には止めてほしいと言われているため、スタッフを呼び、水を持って来てもらう。
「あぁ、もうこんな時間か。専務は孫のような年齢だからな、楽しくてついつい飲み過ぎてしまう。また奥さんに怒られるところだった」
清水は薄くなった頭をパチンと叩く。
「社長の車を店の前につけますね」
千尋はお猪口をテーブルに戻し、立ち上がった。
目眩がするのは飲み過ぎたせいだろう。このあとはタクシーで帰るだけ。明日も仕事だが、定時退社にさせてもらおう。
千尋は社用のスマートフォンで清水の秘書に連絡し、車を店の前に回してほしいと頼んだ。すぐに了承の返事があり電話を切る。
ついでに自分たちが乗車するためのタクシーも手配しておく。
会計を済ませて、店に預かってもらっていた上着を手に取った。そうしているうちに、やや足取りの覚束なくなった清水がやって来る。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
清水にコートを羽織らせ、大和にも同様にして、店を出る。
すでに清水の車は到着しており、彼を見送るとようやく肩から力が抜けた。
(二時間日本酒は、かなりキツい……)
今日は清水の飲むペースが速かったのだ。
おそらく食事を気に入ってもらえたのだろう。気に入った料理が出ると比例して酒のペースも上がる。
「タクシーは呼んだか?」
「はい。そろそろ来るかと。今日はお疲れ様でした」
「あぁ」
道沿いでタクシーを待っていると、迎車のマークをつけたタクシーが店の前で停まった。
千尋が近づくと後部座席のドアが開けられる。
千尋が先に乗り込み行き先を伝えると、大和が隣に腰を下ろす。すぐにタクシーは発進し、車のエンジン音と心地好い振動が伝わってくる。
車内の暖かさもあって、うつらうつらしてしまう。頭がゴンと窓にあたり、意識が戻った。ほんの一瞬、眠ってしまっていたようだ。
眠気を覚ますために頭を振るが、酔っているせいか、まぶたが重くどうにもならない。
「どうせ同じところに帰るんだ……寝ていていい。ついたら起こす」
「すみません……ありがとうございます」
背もたれにもたれかかり、窓の方に体を預けると、車が振動するたびに頭に衝撃が走る。
寝にくいと思いながらも目を閉じてしまえば、引きずられるように眠りに落ちた。
「ん……」
「起きろ」
肩を揺すられる感覚で目を覚ますと、すぐそばに大和の顔があり、息を呑む。
「ひぇっ……す、すみません」
慌てて体を起こす。
千尋はいつの間にか大和の肩を枕にして寝入っていたようだ。よだれで彼の肩が濡れていないかをさりげなくチェックして、胸を撫で下ろした。
千尋が寝ている間にタクシーの精算も済ませていたらしく、後部座席のドアはすでに開けられていた。
大和に続いて千尋がタクシーを降りると、自宅マンションが見える。
タクシーで眠ったから、店を出たときよりも酔いはマシになっているが、なにもしたくないくらい体が重い。
大和のあとを追うようにマンションに入り、エレベーターに乗り込む。
エレベーターの壁に寄りかかっていると、またもや眠気がやって来る。
「ついたぞ」
「あ、はい」
慌ててエレベーターから降りて、廊下を歩いた。バッグを探りもたもたと鍵を捜している間に、大和が鍵を開けて中へ入っていく。
千尋はのろのろと足を動かし、なんとかパンプスを脱ごうとするが、ヒールと酔いによる目眩のせいでふらりとバランスを崩してしまう。
「あ……っ」
「おい」
靴を揃えていた大和が慌てた様子で千尋の体を抱き留めた。どんと膝を床についた音が廊下に響き、膝からじんじんとした痛みが駆け巡る。
「いっ……ぅぅ」
気づけば、しゃがみ込んだ彼の胸に抱きついたような体勢になっている。転んだ驚きと膝の痛み、この体勢による緊張で胸がバクバクと激しい音を立てた。
「あ……す、すみませんっ」
慌てて離れようとするも、膝を強かに床に打ちつけたようで、ぐっと膝に力を入れようとすると痛みが走り、息が詰まる。
「ありがとうございます。これからは我が社の発展のためにも、妻と二人三脚で精進していきたいと思います」
「玖代不動産が発展するのは大いにけっこうだが、仕事ばかりではいかんよ。遅くまで飲み歩くのもな。うちの奥さんも怖いんだ」
清水は笑いながら大和に酌をすると、次に千尋にも徳利を向けた。社長は大の日本酒好きで、空いた徳利が何本になるかはすでに数え切れない。
「いただきます」
千尋も酌を受けて、日本酒を口に含む。
「会長……そろそろお時間では?」
お猪口の酒を一気に飲んだ大和が、腕時計に目を走らせて言った。
そう遅くない時間だが、清水の秘書からは泥酔する前には止めてほしいと言われているため、スタッフを呼び、水を持って来てもらう。
「あぁ、もうこんな時間か。専務は孫のような年齢だからな、楽しくてついつい飲み過ぎてしまう。また奥さんに怒られるところだった」
清水は薄くなった頭をパチンと叩く。
「社長の車を店の前につけますね」
千尋はお猪口をテーブルに戻し、立ち上がった。
目眩がするのは飲み過ぎたせいだろう。このあとはタクシーで帰るだけ。明日も仕事だが、定時退社にさせてもらおう。
千尋は社用のスマートフォンで清水の秘書に連絡し、車を店の前に回してほしいと頼んだ。すぐに了承の返事があり電話を切る。
ついでに自分たちが乗車するためのタクシーも手配しておく。
会計を済ませて、店に預かってもらっていた上着を手に取った。そうしているうちに、やや足取りの覚束なくなった清水がやって来る。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
清水にコートを羽織らせ、大和にも同様にして、店を出る。
すでに清水の車は到着しており、彼を見送るとようやく肩から力が抜けた。
(二時間日本酒は、かなりキツい……)
今日は清水の飲むペースが速かったのだ。
おそらく食事を気に入ってもらえたのだろう。気に入った料理が出ると比例して酒のペースも上がる。
「タクシーは呼んだか?」
「はい。そろそろ来るかと。今日はお疲れ様でした」
「あぁ」
道沿いでタクシーを待っていると、迎車のマークをつけたタクシーが店の前で停まった。
千尋が近づくと後部座席のドアが開けられる。
千尋が先に乗り込み行き先を伝えると、大和が隣に腰を下ろす。すぐにタクシーは発進し、車のエンジン音と心地好い振動が伝わってくる。
車内の暖かさもあって、うつらうつらしてしまう。頭がゴンと窓にあたり、意識が戻った。ほんの一瞬、眠ってしまっていたようだ。
眠気を覚ますために頭を振るが、酔っているせいか、まぶたが重くどうにもならない。
「どうせ同じところに帰るんだ……寝ていていい。ついたら起こす」
「すみません……ありがとうございます」
背もたれにもたれかかり、窓の方に体を預けると、車が振動するたびに頭に衝撃が走る。
寝にくいと思いながらも目を閉じてしまえば、引きずられるように眠りに落ちた。
「ん……」
「起きろ」
肩を揺すられる感覚で目を覚ますと、すぐそばに大和の顔があり、息を呑む。
「ひぇっ……す、すみません」
慌てて体を起こす。
千尋はいつの間にか大和の肩を枕にして寝入っていたようだ。よだれで彼の肩が濡れていないかをさりげなくチェックして、胸を撫で下ろした。
千尋が寝ている間にタクシーの精算も済ませていたらしく、後部座席のドアはすでに開けられていた。
大和に続いて千尋がタクシーを降りると、自宅マンションが見える。
タクシーで眠ったから、店を出たときよりも酔いはマシになっているが、なにもしたくないくらい体が重い。
大和のあとを追うようにマンションに入り、エレベーターに乗り込む。
エレベーターの壁に寄りかかっていると、またもや眠気がやって来る。
「ついたぞ」
「あ、はい」
慌ててエレベーターから降りて、廊下を歩いた。バッグを探りもたもたと鍵を捜している間に、大和が鍵を開けて中へ入っていく。
千尋はのろのろと足を動かし、なんとかパンプスを脱ごうとするが、ヒールと酔いによる目眩のせいでふらりとバランスを崩してしまう。
「あ……っ」
「おい」
靴を揃えていた大和が慌てた様子で千尋の体を抱き留めた。どんと膝を床についた音が廊下に響き、膝からじんじんとした痛みが駆け巡る。
「いっ……ぅぅ」
気づけば、しゃがみ込んだ彼の胸に抱きついたような体勢になっている。転んだ驚きと膝の痛み、この体勢による緊張で胸がバクバクと激しい音を立てた。
「あ……す、すみませんっ」
慌てて離れようとするも、膝を強かに床に打ちつけたようで、ぐっと膝に力を入れようとすると痛みが走り、息が詰まる。