無駄を嫌う御曹司とかわいげのない秘書の契約結婚
キッチンから共用スペースを見ていると、ドールハウスで遊んでいる女の子たちがいた。女の子たちは皆、楽しそうにおままごとをしている。
(次のボーナスで、人形の服と小物を揃えようかな)
きっと喜んでくれるだろうと千尋は頬を緩めた。
焼きそばをいくつものフライパンで作っていき、横幅四十センチほどの保温保冷バットに入れていく。
スープの入れ物もずいぶんと大きい鍋。小学校の給食でよく見たやつだ。
「できたわよ~並んで~!」
田中が声をかけると、母子が順番に並んでいく。配膳は田中たちがやるというので、千尋はチケットを受け取り、トレイを渡す。
「あ、お姉ちゃん、木のおうちくれた人? 千尋さん?」
先週、真っ先にドールハウスで遊んでくれた女の子が、こちらを見上げて嬉しそうに声をかけてくれた。
「えぇ、そうよ。遊んでくれてる?」
「うん! 楽しい!」
千尋は感情表現豊というタイプではないのに、女の子はずいぶんと人懐っこく接してくれる。よほど玩具が気に入ってくれたのだろう。
お金を払って千尋もチケットを購入し、田中たちと一緒に焼きそばとスープを食べていると、片付けに入ろうかという時間に誰かが入ってきた。
「あら、社長~」
田中が高い声を上げると、子どもたちからも「社長だ」「社長」という声が響く。
社長というのはあだ名かなにかだろうか。年の頃は六十代か七十前半くらい。白髪であるもの体格もよく若々しい。
「みんな、元気かな? たくさん食べたかい?」
「食べた~!」
子どもたちが元気よく手を挙げると、嬉しそうに相好を崩す。
「そうかそうか。今日はお菓子を持ってきたからね。みんなでわけて家に持って帰るんだよ。でも、アレルギーがある子はべつに用意するから言ってね」
お菓子と聞いて、子どもたちから歓声が上がった。
社長と呼ばれた男性の後ろから歩いてきた男女数人が、邪魔にならない場所に菓子の箱を積み上げていく。
ケーキのような生菓子ではなく保存の利くものが多いのは、今日来られなかった人が後日持って帰れるようにだろう。
すると社長の目が千尋に向いた。
「おや、初めて見る人がいるね? ボランティア?」
「はい、椎名と申します」
「椎名さんは先週からボランティアに来てくれてるんです! 料理が上手で大助かりなんですよ!」
千尋の隣にいた田中が社長に向けて説明してくれた。
「そうかそうか。後藤です。ボランティアは大歓迎だよ。子どもたちをよろしくね。そういえば、新しい玩具も増えてるね。誰かからの寄付?」
社長は菓子の箱が積み上げられているそばのドールハウスや車に視線を向けた。社員のひとりが動き、ドールハウスを手にして戻ってくる。
「あ、それも椎名さんが持ってきてくれたんですよ。椎名さんのご実家が作ってる玩具なんですって。かわいいですよね~」
「ほう、いいね。温もりのある木の玩具だ。手が込んでいるし、これはかなり高価だろう?」
社長は若い男性から受け取ったドールハウスを開けて、指先で撫でるように煙突や窓枠、家具に触れた。どれを取ってもフォルムは滑らかで角がない。
「はい、材料や工程の関係で、どうしても安価にはできないのです」
使用する木材によって耐久性はまったく違う。
たとえばヒノキで言えば、伐採後千年経ってもほとんど耐久性が変わらないと言われており、千年以上前に立てられた仏閣などにも使用されている。
ドールハウスも耐久性に優れた国産天然木を使用していて、工程には機械を使用しているがその作業も技術力が必要だ。
そのため高価格になってしまうが、クマトイファクトリーは次世代に引き継げる玩具を目指している。
それを伝えれば、社長は納得したように頷いた。
「たとえば、出産祝いに親から子へ、大切な友人へ。そういう贈り物に選んでほしいと思っています。ここの子どもたちが大きくなって、自分の子どもへの贈り物として思い出してくれたら、嬉しいなと思いまして」
「うんうん、そうだねぇ」
社長と話していると、後ろにいた女の子が千尋の手を引いた。
「ね~千尋さんも、一緒に遊ぼう!」
「いいの?」
「うん!」
千尋がドールハウスが広げられているテーブルの前に行くと、女の子が人形を持ってきた。人形は千尋がプレゼントした服とは違う服を着ている。
「この服、誰かが作ってくれたの?」
「うん! 田中さん!」
「素敵だね」
「私もお洋服、作れるようになりたいなぁ」
針を持つにはまだ小さすぎる手だ。
小学校での裁縫の授業もまだ始まってはいないだろう。けれど、これがやりたい、好きだと思えることがあるのは喜ばしい。
「きっと作れるようになるわ。学校でも家庭科の授業で教えてくれるし、図書室にお裁縫の本が置いてあるはずよ。でも、針を使うときはおとながいるところでね」
(次のボーナスで、人形の服と小物を揃えようかな)
きっと喜んでくれるだろうと千尋は頬を緩めた。
焼きそばをいくつものフライパンで作っていき、横幅四十センチほどの保温保冷バットに入れていく。
スープの入れ物もずいぶんと大きい鍋。小学校の給食でよく見たやつだ。
「できたわよ~並んで~!」
田中が声をかけると、母子が順番に並んでいく。配膳は田中たちがやるというので、千尋はチケットを受け取り、トレイを渡す。
「あ、お姉ちゃん、木のおうちくれた人? 千尋さん?」
先週、真っ先にドールハウスで遊んでくれた女の子が、こちらを見上げて嬉しそうに声をかけてくれた。
「えぇ、そうよ。遊んでくれてる?」
「うん! 楽しい!」
千尋は感情表現豊というタイプではないのに、女の子はずいぶんと人懐っこく接してくれる。よほど玩具が気に入ってくれたのだろう。
お金を払って千尋もチケットを購入し、田中たちと一緒に焼きそばとスープを食べていると、片付けに入ろうかという時間に誰かが入ってきた。
「あら、社長~」
田中が高い声を上げると、子どもたちからも「社長だ」「社長」という声が響く。
社長というのはあだ名かなにかだろうか。年の頃は六十代か七十前半くらい。白髪であるもの体格もよく若々しい。
「みんな、元気かな? たくさん食べたかい?」
「食べた~!」
子どもたちが元気よく手を挙げると、嬉しそうに相好を崩す。
「そうかそうか。今日はお菓子を持ってきたからね。みんなでわけて家に持って帰るんだよ。でも、アレルギーがある子はべつに用意するから言ってね」
お菓子と聞いて、子どもたちから歓声が上がった。
社長と呼ばれた男性の後ろから歩いてきた男女数人が、邪魔にならない場所に菓子の箱を積み上げていく。
ケーキのような生菓子ではなく保存の利くものが多いのは、今日来られなかった人が後日持って帰れるようにだろう。
すると社長の目が千尋に向いた。
「おや、初めて見る人がいるね? ボランティア?」
「はい、椎名と申します」
「椎名さんは先週からボランティアに来てくれてるんです! 料理が上手で大助かりなんですよ!」
千尋の隣にいた田中が社長に向けて説明してくれた。
「そうかそうか。後藤です。ボランティアは大歓迎だよ。子どもたちをよろしくね。そういえば、新しい玩具も増えてるね。誰かからの寄付?」
社長は菓子の箱が積み上げられているそばのドールハウスや車に視線を向けた。社員のひとりが動き、ドールハウスを手にして戻ってくる。
「あ、それも椎名さんが持ってきてくれたんですよ。椎名さんのご実家が作ってる玩具なんですって。かわいいですよね~」
「ほう、いいね。温もりのある木の玩具だ。手が込んでいるし、これはかなり高価だろう?」
社長は若い男性から受け取ったドールハウスを開けて、指先で撫でるように煙突や窓枠、家具に触れた。どれを取ってもフォルムは滑らかで角がない。
「はい、材料や工程の関係で、どうしても安価にはできないのです」
使用する木材によって耐久性はまったく違う。
たとえばヒノキで言えば、伐採後千年経ってもほとんど耐久性が変わらないと言われており、千年以上前に立てられた仏閣などにも使用されている。
ドールハウスも耐久性に優れた国産天然木を使用していて、工程には機械を使用しているがその作業も技術力が必要だ。
そのため高価格になってしまうが、クマトイファクトリーは次世代に引き継げる玩具を目指している。
それを伝えれば、社長は納得したように頷いた。
「たとえば、出産祝いに親から子へ、大切な友人へ。そういう贈り物に選んでほしいと思っています。ここの子どもたちが大きくなって、自分の子どもへの贈り物として思い出してくれたら、嬉しいなと思いまして」
「うんうん、そうだねぇ」
社長と話していると、後ろにいた女の子が千尋の手を引いた。
「ね~千尋さんも、一緒に遊ぼう!」
「いいの?」
「うん!」
千尋がドールハウスが広げられているテーブルの前に行くと、女の子が人形を持ってきた。人形は千尋がプレゼントした服とは違う服を着ている。
「この服、誰かが作ってくれたの?」
「うん! 田中さん!」
「素敵だね」
「私もお洋服、作れるようになりたいなぁ」
針を持つにはまだ小さすぎる手だ。
小学校での裁縫の授業もまだ始まってはいないだろう。けれど、これがやりたい、好きだと思えることがあるのは喜ばしい。
「きっと作れるようになるわ。学校でも家庭科の授業で教えてくれるし、図書室にお裁縫の本が置いてあるはずよ。でも、針を使うときはおとながいるところでね」