過去で君に恋をした~32歳で死ぬ君を救うために

第10章 未来の告白

数日後の放課後、凛は悠真と一緒に下校していた。
その時、悠真が立ち止まった。
「ねえ、凛ちゃん。話したいことがあるんだ」
悠真の表情が、いつもと違う。
真剣な顔。
「公園で話したい」
悠真は、近くの公園を指差した。
凛は、頷いた。
二人は、公園へ向かった。
公園には、誰もいなかった。
悠真は、ベンチに座った。
凛も、隣に座る。
悠真は、しばらく黙っていた。
空を見上げている。
凛は、悠真を見つめた。
何を話すんだろう。
悠真の表情は、とても真剣だ。
凛は、心臓がドキドキしているのを感じた。
緊張する。
「凛ちゃん」
悠真が、やっと口を開いた。
「僕、凛ちゃんに話しておきたいことがあるんだ」
悠真は、凛を見た。
その目は、いつもより大人びて見えた。
「何でも言って」
凛は、優しく答えた。

「僕、32歳で死ぬんだ」
凛は、固まった。
32歳で死ぬ?
「ある製薬会社の薬のせいで」
凛の心臓が、激しく鳴り始めた。
製薬会社。
「え……?」
凛は、やっと声を出した。
「未来の僕が、日記を書いてたんだ。タンスの奥に、隠してあった」
悠真は、小さく頷いた。
「日記には、僕が医者になることが書いてあった。薬害で苦しんでる人を、治療してるって」
凛は、悠真を見つめた。
「でも、僕自身も、同じ薬の副作用で……32歳で、死ぬって」
凛は、胸が苦しくなった。
「どこの製薬会社か、わかるの?」
悠真は、首を振った。
「会社の名前は、書いてなかった」
「薬の名前は?」
「それも……はっきりとは。メディ……なんとか、って」
凛は、血の気が引いた。
メディアジール。
自分の会社の薬だ。
凛は、手が震えるのを感じた。
やっぱり、そうだったんだ。
あの副作用報告書。
そして、悠真が犠牲になる。
「凛ちゃん、大丈夫? 顔、真っ青だよ」
凛は、深呼吸をした。
「ごめん。ちょっと、びっくりしちゃって」
悠真は、凛の手を握った。
「僕ね、凛ちゃんなら、何かできるんじゃないかって思ったんだ。凛ちゃんは、特別だから」
凛は、悠真に尋ねた。
「その日記には、他に何が書いてあったの?」
悠真は、考えるように空を見た。
「僕が大学に行くこと。医学部に入ること。そして、病院で働くこと」
悠真は、ゆっくりと話した。
「日記には、たくさんの人を助けたいって書いてあった。でも……」
悠真の声が、小さくなる。
「自分は助けられないって」
凛は、唇を噛んだ。
悠真は、続けた。
「日記の最後のページに、こう書いてあったんだ。『もし過去に戻れたら、誰かに伝えたい』って」
凛は、息を呑んだ。
「だから、僕、凛ちゃんに話したんだ」
悠真は、凛を見た。
「凛ちゃんは、きっと何かしてくれるって、信じてる」
凛は、悠真の手を握り返した。
「わかった。必ず、何とかする。約束する」
悠真は、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、凛ちゃん」
凛は、悠真と別れた後、一人で家に帰った。
頭の中は、悠真の言葉でいっぱいだった。
32歳で死ぬ。
製薬会社の薬。
メディアジール。
全部、繋がっている。
凛は、自分の部屋に入ると、布団に倒れ込んだ。
どうすればいい。
現代に戻らなきゃ。
戻って、あの報告書のことを、ちゃんと調べなきゃ。
でも、どうやって戻るんだろう。
凛は、焦りを感じた。
時間がない。
いや、まだ時間はある。
悠真は、まだ子供だ。
32歳まで、あと24年ある。
でも、その24年の間に、メディアジールは世に出る。
そして、悠真は薬害の犠牲になる。
凛は、目を閉じた。
必ず、戻る。
そして、悠真を救う。
凛は、心に誓った。

翌朝、凛は目を覚ました。
決意は、揺らいでいなかった。
悠真を救う。
そのために、現代に戻る。
凛は、学校へ向かった。
悠真が、校門で待っていた。
「おはよう、凛ちゃん」
悠真は、いつもの笑顔だった。
昨日の真剣な表情とは、違う。
明るくて、優しい笑顔。
凛は、その笑顔を見て、胸が熱くなった。
この笑顔を、守りたい。
この子の未来を、守りたい。
「おはよう、悠真くん」
凛は、笑顔で答えた。
二人は、一緒に教室へ向かった。
凛は、心の中で呟いた。
必ず、戻る。
必ず、あなたを救う。
約束は、絶対に守る。
凛の決意は、固かった。
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