過去で君に恋をした~32歳で死ぬ君を救うために
第8章 子供の時間
翌日の放課後、凛は悠真や友達と一緒に公園へ向かった。
「今日は、ドッジボールしよう!」
クラスメイトの望月けんたが、ボールを持って言った。
「いいね!」
みんなが賛成する。
公園に着くと、子供たちは二つのチームに分かれた。
凛は、悠真と同じチームになった。
「凛ちゃん、一緒に頑張ろうね」
悠真が、笑顔で言った。
「うん」
凛は、頷いた。
でも、心の中では少し迷っていた。
ドッジボール。
子供の頃は、得意だった。
でも、今の自分は、大人の意識を持っている。
本気でボールを投げたら、子供たちを傷つけてしまうかもしれない。
ゲームが始まった。
相手チームから、ボールが飛んでくる。
凛は、避けようと思えば避けられた。
でも、わざと避けなかった。
ボールが、凛の体に当たる。
「あ、凛ちゃん、アウト!」
けんたが言った。
凛は、コートの外に出た。
悠真が、心配そうに駆け寄ってきた。
「凛ちゃん、大丈夫? いつもより、動きが遅かったよ」
「ううん、大丈夫」
凛は、笑顔を作った。
「ちょっと、ぼーっとしてただけ」
悠真は、まだ心配そうな顔をしていた。
「無理しないでね」
「うん、ありがとう」
凛は、悠真の優しさに、胸が温かくなった。
ゲームは続く。
凛は、何度もわざと当たった。
本気を出せない。
子供たちと、同じように遊べない。
大人の意識が、邪魔をする。
凛は、少し寂しくなった。
完全に、子供に戻ることはできないんだ。
体は子供でも、心は大人のままなんだ。
ゲームが終わると、悠真が凛のところに来た。
「凛ちゃん、今日、元気ないね」
悠真は、凛の顔を覗き込んだ。
「そんなことないよ」
凛は、首を振った。
「でも……」
悠真は、まだ心配そうだった。
凛は、悠真の頭を撫でた。
「大丈夫。ちょっと疲れてただけ」
悠真は、少し安心したように笑った。
「そっか。じゃあ、今度は違う遊びしよう!」
「うん」
凛は、笑顔で答えた。
次の日の放課後、悠真が凛に言った。
「ねえ、凛ちゃん。カブトムシ、探しに行かない?」
「カブトムシ?」
凛は、驚いた。
カブトムシ。
子供の頃、よく探したっけ。
「うん! 学校の裏の林に、いるんだよ。今、ちょうどいい季節なんだ」
悠真は、目を輝かせて言った。
「行こう!」
凛は、頷いた。
二人は、学校の裏にある小さな林へ向かった。
木々が生い茂り、薄暗い。
地面には、落ち葉が積もっている。
悠真は、虫取り網を持っていた。
「この木、樹液が出てるんだよ。カブトムシが来るんだ」
悠真は、一本の木を指差した。
凛は、その木に近づいた。
幹に、樹液が滲み出ている。
甘い匂いがする。
「あ! いた!」
悠真が、興奮した声を上げた。
凛も、木を見た。
樹液のところに、カブトムシがいる。
黒くて、大きくて、立派な角。
「すごい! 大きいよ!」
悠真は、目を輝かせている。
虫取り網を構える。
そっと、カブトムシに近づく。
凛は、その様子を見ていた。
悠真の真剣な顔。
キラキラした目。
こんな小さなことが、宝物だったんだ。
カブトムシを見つけること。
それだけで、こんなに嬉しそうにできるんだ。
大人になって、忘れていた。
小さな喜び。
小さな幸せ。
それが、どんなに大切か。
悠真は、カブトムシを捕まえた。
「やった! 捕まえた!」
悠真は、嬉しそうに凛に見せた。
「すごいね」
凛は、笑顔で言った。
「凛ちゃんも、触ってみる?」
「うん」
凛は、カブトムシを手に取った。
ゴツゴツした感触。
動く脚。
懐かしい。
凛は、カブトムシを悠真に返した。
「大切に育ててね」
「うん!」
悠真は、カブトムシを虫かごに入れた。
二人は、林を出て、帰路についた。
悠真は、ずっとカブトムシの話をしていた。
凛は、それを聞きながら、微笑んでいた。
翌日の放課後、悠真が凛に言った。
「ねえ、凛ちゃん。駄菓子屋、行かない?」
「駄菓子屋?」
凛は、懐かしい響きに心が躍った。
「うん! 新しいお菓子、入ったって聞いたんだ」
悠真は、ポケットから10円玉を何枚か取り出した。
「僕、これしか持ってないけど」
凛も、ランドセルから小銭入れを出した。
中には、10円玉が5枚。
「私も、これだけ」
二人は、笑い合った。
学校の近くの駄菓子屋へ向かう。
古い木造の建物。
引き戸を開けると、カラカラと音がする。
「いらっしゃい」
店主のおばあちゃんが、優しい声で迎えてくれた。
店内には、色とりどりのお菓子が並んでいる。
ラムネ、チョコレート、グミ。
凛は、一つ一つを見て回った。
懐かしい。
どれも、子供の頃に食べたお菓子。
「凛ちゃん、これ好き?」
悠真が、グミを手に取って聞いてきた。
「うん、大好き」
凛は、笑顔で答えた。
「じゃあ、これ買おう」
悠真は、グミを取った。
凛は、ラムネを手に取った。
「これも好きなんだ」
「ラムネ、おいしいよね」
悠真も、ラムネを取った。
二人は、レジに向かった。
「全部で50円ね」
おばあちゃんが、優しく言った。
凛と悠真は、10円玉を数えて渡した。
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
おばあちゃんは、お菓子を小さな袋に入れてくれた。
「ありがとうございます」
二人は、お礼を言って店を出た。
店の前のベンチに座り、お菓子を開ける。
凛は、グミを一つ口に入れた。
甘味が、口の中に広がる。
懐かしい味。
「おいしいね」
悠真が、笑顔で言った。
「うん、おいしい」
凛も、笑顔で答えた。
二人は、お菓子を食べながら、おしゃべりをした。
学校のこと。
友達のこと。
他愛のない話。
でも、楽しい。
凛は、この時間が、とても愛おしかった。
ただ、お菓子を食べて、おしゃべりをする。
それだけのことが、こんなに幸せなんだ。
夜になった。
凛は、布団の中で目を開けていた。
天井を見つめる。
どうやって、現代に戻るんだろう。
あのメールには、机の引き出しが入口だと書いてあった。
でも、ここには引き出しなんてない。
凛は、部屋を見回した。
子供の頃の自分の部屋。
小さな机。本棚。ぬいぐるみ。
でも、あの引き出しはない。
現代の自分の部屋にある、あの引き出し。
凛は、焦りを感じた。
もし、戻れなかったら?
もし、ずっとここにいることになったら?
母は、心配するだろう。
会社は、どうなるんだろう。
いや、代理人がいるから、大丈夫なのか?
でも、それでも……。
凛は、布団を被った。
不安が、胸を締め付ける。
帰りたい。
でも……。
凛は、目を閉じた。
悠真の笑顔が、浮かんできた。
一緒に遊んだこと。
秘密基地での会話。
カブトムシを捕まえた時の興奮。
駄菓子屋でのおしゃべり。
全部、楽しかった。
もう少し、ここにいたい。
もう少し、この時間を味わいたい。
凛は、矛盾した気持ちに揺れていた。
帰りたい。
でも、まだいたい。
凛は、ため息をついた。
答えは、出ない。
でも、今は、ここにいる。
それだけは、確かだ。
凛は、目を閉じた。
いつの間にか、眠りに落ちていた。
朝になった。
凛は、目を覚ました。
いつもの朝。
でも、今日も過去にいる。
凛は、制服に着替え、ランドセルを背負った。
学校へ向かう。
校門をくぐり、下駄箱へ向かった。
自分の下駄箱を開ける。
中に、小さな紙が入っていた。
凛は、その紙を取り出した。
手紙だ。
開いてみる。
子供の字で、こう書かれていた。
「凛ちゃんへ。今日も遊ぼうね。悠真より」
凛は、その手紙を見つめた。
胸が、温かくなる。
こんな小さな手紙。
たった一行の言葉。
でも、こんなに嬉しい。
大人になって、失っていたもの。
純粋な喜び。
小さなことで幸せを感じられる心。
それを、今、思い出している。
凛は、手紙を胸に抱いた。
涙が、溢れてきた。
凛は、笑顔になった。
ありがとう、悠真。
心の中で、呟いた。
「今日は、ドッジボールしよう!」
クラスメイトの望月けんたが、ボールを持って言った。
「いいね!」
みんなが賛成する。
公園に着くと、子供たちは二つのチームに分かれた。
凛は、悠真と同じチームになった。
「凛ちゃん、一緒に頑張ろうね」
悠真が、笑顔で言った。
「うん」
凛は、頷いた。
でも、心の中では少し迷っていた。
ドッジボール。
子供の頃は、得意だった。
でも、今の自分は、大人の意識を持っている。
本気でボールを投げたら、子供たちを傷つけてしまうかもしれない。
ゲームが始まった。
相手チームから、ボールが飛んでくる。
凛は、避けようと思えば避けられた。
でも、わざと避けなかった。
ボールが、凛の体に当たる。
「あ、凛ちゃん、アウト!」
けんたが言った。
凛は、コートの外に出た。
悠真が、心配そうに駆け寄ってきた。
「凛ちゃん、大丈夫? いつもより、動きが遅かったよ」
「ううん、大丈夫」
凛は、笑顔を作った。
「ちょっと、ぼーっとしてただけ」
悠真は、まだ心配そうな顔をしていた。
「無理しないでね」
「うん、ありがとう」
凛は、悠真の優しさに、胸が温かくなった。
ゲームは続く。
凛は、何度もわざと当たった。
本気を出せない。
子供たちと、同じように遊べない。
大人の意識が、邪魔をする。
凛は、少し寂しくなった。
完全に、子供に戻ることはできないんだ。
体は子供でも、心は大人のままなんだ。
ゲームが終わると、悠真が凛のところに来た。
「凛ちゃん、今日、元気ないね」
悠真は、凛の顔を覗き込んだ。
「そんなことないよ」
凛は、首を振った。
「でも……」
悠真は、まだ心配そうだった。
凛は、悠真の頭を撫でた。
「大丈夫。ちょっと疲れてただけ」
悠真は、少し安心したように笑った。
「そっか。じゃあ、今度は違う遊びしよう!」
「うん」
凛は、笑顔で答えた。
次の日の放課後、悠真が凛に言った。
「ねえ、凛ちゃん。カブトムシ、探しに行かない?」
「カブトムシ?」
凛は、驚いた。
カブトムシ。
子供の頃、よく探したっけ。
「うん! 学校の裏の林に、いるんだよ。今、ちょうどいい季節なんだ」
悠真は、目を輝かせて言った。
「行こう!」
凛は、頷いた。
二人は、学校の裏にある小さな林へ向かった。
木々が生い茂り、薄暗い。
地面には、落ち葉が積もっている。
悠真は、虫取り網を持っていた。
「この木、樹液が出てるんだよ。カブトムシが来るんだ」
悠真は、一本の木を指差した。
凛は、その木に近づいた。
幹に、樹液が滲み出ている。
甘い匂いがする。
「あ! いた!」
悠真が、興奮した声を上げた。
凛も、木を見た。
樹液のところに、カブトムシがいる。
黒くて、大きくて、立派な角。
「すごい! 大きいよ!」
悠真は、目を輝かせている。
虫取り網を構える。
そっと、カブトムシに近づく。
凛は、その様子を見ていた。
悠真の真剣な顔。
キラキラした目。
こんな小さなことが、宝物だったんだ。
カブトムシを見つけること。
それだけで、こんなに嬉しそうにできるんだ。
大人になって、忘れていた。
小さな喜び。
小さな幸せ。
それが、どんなに大切か。
悠真は、カブトムシを捕まえた。
「やった! 捕まえた!」
悠真は、嬉しそうに凛に見せた。
「すごいね」
凛は、笑顔で言った。
「凛ちゃんも、触ってみる?」
「うん」
凛は、カブトムシを手に取った。
ゴツゴツした感触。
動く脚。
懐かしい。
凛は、カブトムシを悠真に返した。
「大切に育ててね」
「うん!」
悠真は、カブトムシを虫かごに入れた。
二人は、林を出て、帰路についた。
悠真は、ずっとカブトムシの話をしていた。
凛は、それを聞きながら、微笑んでいた。
翌日の放課後、悠真が凛に言った。
「ねえ、凛ちゃん。駄菓子屋、行かない?」
「駄菓子屋?」
凛は、懐かしい響きに心が躍った。
「うん! 新しいお菓子、入ったって聞いたんだ」
悠真は、ポケットから10円玉を何枚か取り出した。
「僕、これしか持ってないけど」
凛も、ランドセルから小銭入れを出した。
中には、10円玉が5枚。
「私も、これだけ」
二人は、笑い合った。
学校の近くの駄菓子屋へ向かう。
古い木造の建物。
引き戸を開けると、カラカラと音がする。
「いらっしゃい」
店主のおばあちゃんが、優しい声で迎えてくれた。
店内には、色とりどりのお菓子が並んでいる。
ラムネ、チョコレート、グミ。
凛は、一つ一つを見て回った。
懐かしい。
どれも、子供の頃に食べたお菓子。
「凛ちゃん、これ好き?」
悠真が、グミを手に取って聞いてきた。
「うん、大好き」
凛は、笑顔で答えた。
「じゃあ、これ買おう」
悠真は、グミを取った。
凛は、ラムネを手に取った。
「これも好きなんだ」
「ラムネ、おいしいよね」
悠真も、ラムネを取った。
二人は、レジに向かった。
「全部で50円ね」
おばあちゃんが、優しく言った。
凛と悠真は、10円玉を数えて渡した。
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
おばあちゃんは、お菓子を小さな袋に入れてくれた。
「ありがとうございます」
二人は、お礼を言って店を出た。
店の前のベンチに座り、お菓子を開ける。
凛は、グミを一つ口に入れた。
甘味が、口の中に広がる。
懐かしい味。
「おいしいね」
悠真が、笑顔で言った。
「うん、おいしい」
凛も、笑顔で答えた。
二人は、お菓子を食べながら、おしゃべりをした。
学校のこと。
友達のこと。
他愛のない話。
でも、楽しい。
凛は、この時間が、とても愛おしかった。
ただ、お菓子を食べて、おしゃべりをする。
それだけのことが、こんなに幸せなんだ。
夜になった。
凛は、布団の中で目を開けていた。
天井を見つめる。
どうやって、現代に戻るんだろう。
あのメールには、机の引き出しが入口だと書いてあった。
でも、ここには引き出しなんてない。
凛は、部屋を見回した。
子供の頃の自分の部屋。
小さな机。本棚。ぬいぐるみ。
でも、あの引き出しはない。
現代の自分の部屋にある、あの引き出し。
凛は、焦りを感じた。
もし、戻れなかったら?
もし、ずっとここにいることになったら?
母は、心配するだろう。
会社は、どうなるんだろう。
いや、代理人がいるから、大丈夫なのか?
でも、それでも……。
凛は、布団を被った。
不安が、胸を締め付ける。
帰りたい。
でも……。
凛は、目を閉じた。
悠真の笑顔が、浮かんできた。
一緒に遊んだこと。
秘密基地での会話。
カブトムシを捕まえた時の興奮。
駄菓子屋でのおしゃべり。
全部、楽しかった。
もう少し、ここにいたい。
もう少し、この時間を味わいたい。
凛は、矛盾した気持ちに揺れていた。
帰りたい。
でも、まだいたい。
凛は、ため息をついた。
答えは、出ない。
でも、今は、ここにいる。
それだけは、確かだ。
凛は、目を閉じた。
いつの間にか、眠りに落ちていた。
朝になった。
凛は、目を覚ました。
いつもの朝。
でも、今日も過去にいる。
凛は、制服に着替え、ランドセルを背負った。
学校へ向かう。
校門をくぐり、下駄箱へ向かった。
自分の下駄箱を開ける。
中に、小さな紙が入っていた。
凛は、その紙を取り出した。
手紙だ。
開いてみる。
子供の字で、こう書かれていた。
「凛ちゃんへ。今日も遊ぼうね。悠真より」
凛は、その手紙を見つめた。
胸が、温かくなる。
こんな小さな手紙。
たった一行の言葉。
でも、こんなに嬉しい。
大人になって、失っていたもの。
純粋な喜び。
小さなことで幸せを感じられる心。
それを、今、思い出している。
凛は、手紙を胸に抱いた。
涙が、溢れてきた。
凛は、笑顔になった。
ありがとう、悠真。
心の中で、呟いた。