ブーケの行方と、あの日の片思い
第十七章:花嫁へのメッセージ
「……色々思い出してくるな」
宏樹がそう言い終えた直後、会場の照明がふっと暗くなり、お色直し再入場のテーマ曲が流れ始めた。
ざわついていた空気が引き締まり、ゲストたちが一斉に扉の方を見る。
「ああ、もう時間か」
宏樹が、ほんの少し名残惜しそうに席を立つ。
「また、後で」
優花も立ち上がり、笑顔で応じた。
その笑みは自然で、どこか柔らかくて、自分でも驚くほど落ち着いていた。
宏樹は頷き、テーブルから離れようとした。
そのとき――
彼の視線が、優花の席の横に置かれたメッセージカードにふと留まった。
それは、新郎新婦へ自由に書き込むために用意された小さなカード。
優花は、その空白に美咲への想いを丁寧に綴っていた。
「……これ、相沢が書いたんだ?」
許可を求める間もなく、自然な動作でカードを手に取り、目を通し始める。
優花は一瞬だけ戸惑った。
他人に“心の内側”を読まれるのは、どこかくすぐったいような気恥ずかしさがある。
だが、宏樹が真剣に文章を追うその表情を見て、言葉を差し挟むことができなかった。
数行のメッセージ――
けれど、そこには美咲との長い友情、感謝、そして心からの祝福が詰まっている。
宏樹は静かに読み進め、読み終えると、そっとカードを元の場所に戻した。
「……相沢らしい。すごく、優しいメッセージだ」
その声は、決して社交辞令ではない。
文章の奥にある優花の気持ちを、そのまま受け取った人の声だった。
「美咲は、相沢にこうやって祝ってもらえて、本当に嬉しいと思うよ」
優花は、不意に胸の奥が熱くなる。
(……読まれたのに、嫌じゃない)
むしろ、自分の“大切にしてきた気持ち”を丁寧に扱われたようで、くすぐったいほど誇らしかった。
宏樹は少し視線を落とし、それからふと顔を上げて真っ直ぐに言った。
「優花は……誰に対しても、本当に優しいんだな」
今度の「優しい」は、外見や印象ではなく、
優花の「生き方」そのものを見ての言葉だった。
優花の胸の奥で、何かがゆっくりほどけていく。
「ありがとうございます。……宏樹も、美咲たちの余興、頑張ってくださいね」
宏樹は目を丸くし、そして苦笑した。
「おい、バレてんのかよ。ああ、そろそろ戻って準備しないと……」
そう言いながらも、彼の笑顔は先ほどより少し自信に満ちていた。
再会してからずっと、どこか距離を探っていた彼の表情が、いま、やっと自然に緩んでいる。
「じゃあ……二次会で」
宏樹は短くそう言い、会場後方へと歩いていった。
その背中を追わず、優花はテーブルの上のカードにそっと指先を触れた。
(……読まれた、のに)
そこには、今の優花の想いも、美咲との軌跡も、そのまま温められたまま置かれている。
宏樹の言葉のおかげで、
優花の中に生まれたのは、過去の片思いではなく――
“今の相沢優花”としての、静かな自信だった。
優花は視線を、再入場の光が差し込む扉へ向けた。
その光は、
これから訪れる二次会――
そして、二人の“次のページ”へ繋がっているように思えた。
宏樹がそう言い終えた直後、会場の照明がふっと暗くなり、お色直し再入場のテーマ曲が流れ始めた。
ざわついていた空気が引き締まり、ゲストたちが一斉に扉の方を見る。
「ああ、もう時間か」
宏樹が、ほんの少し名残惜しそうに席を立つ。
「また、後で」
優花も立ち上がり、笑顔で応じた。
その笑みは自然で、どこか柔らかくて、自分でも驚くほど落ち着いていた。
宏樹は頷き、テーブルから離れようとした。
そのとき――
彼の視線が、優花の席の横に置かれたメッセージカードにふと留まった。
それは、新郎新婦へ自由に書き込むために用意された小さなカード。
優花は、その空白に美咲への想いを丁寧に綴っていた。
「……これ、相沢が書いたんだ?」
許可を求める間もなく、自然な動作でカードを手に取り、目を通し始める。
優花は一瞬だけ戸惑った。
他人に“心の内側”を読まれるのは、どこかくすぐったいような気恥ずかしさがある。
だが、宏樹が真剣に文章を追うその表情を見て、言葉を差し挟むことができなかった。
数行のメッセージ――
けれど、そこには美咲との長い友情、感謝、そして心からの祝福が詰まっている。
宏樹は静かに読み進め、読み終えると、そっとカードを元の場所に戻した。
「……相沢らしい。すごく、優しいメッセージだ」
その声は、決して社交辞令ではない。
文章の奥にある優花の気持ちを、そのまま受け取った人の声だった。
「美咲は、相沢にこうやって祝ってもらえて、本当に嬉しいと思うよ」
優花は、不意に胸の奥が熱くなる。
(……読まれたのに、嫌じゃない)
むしろ、自分の“大切にしてきた気持ち”を丁寧に扱われたようで、くすぐったいほど誇らしかった。
宏樹は少し視線を落とし、それからふと顔を上げて真っ直ぐに言った。
「優花は……誰に対しても、本当に優しいんだな」
今度の「優しい」は、外見や印象ではなく、
優花の「生き方」そのものを見ての言葉だった。
優花の胸の奥で、何かがゆっくりほどけていく。
「ありがとうございます。……宏樹も、美咲たちの余興、頑張ってくださいね」
宏樹は目を丸くし、そして苦笑した。
「おい、バレてんのかよ。ああ、そろそろ戻って準備しないと……」
そう言いながらも、彼の笑顔は先ほどより少し自信に満ちていた。
再会してからずっと、どこか距離を探っていた彼の表情が、いま、やっと自然に緩んでいる。
「じゃあ……二次会で」
宏樹は短くそう言い、会場後方へと歩いていった。
その背中を追わず、優花はテーブルの上のカードにそっと指先を触れた。
(……読まれた、のに)
そこには、今の優花の想いも、美咲との軌跡も、そのまま温められたまま置かれている。
宏樹の言葉のおかげで、
優花の中に生まれたのは、過去の片思いではなく――
“今の相沢優花”としての、静かな自信だった。
優花は視線を、再入場の光が差し込む扉へ向けた。
その光は、
これから訪れる二次会――
そして、二人の“次のページ”へ繋がっているように思えた。