新堂さんと恋の糸
そうして、日時を指定して一度会うことにした。
外での打ち合わせでたまに利用する、貸し会議室のあるオフィスビルを目指す。
約束の時間は9時半。今は9時を少し過ぎたところだが、オフィス街はとにかく人が多かった。
自分も玲央ほどではないが、基本は家と事務所の往復だけでほとんど外に出ていない。昼食に出ることはあっても、ほとんど事務所周辺で済ませてしまっている。
軽く人に酔いそうだな、と周囲よりもペースを落として歩く。すると自分の前方を歩くスーツの女性が、前から走ってきたサラリーマンに正面からぶつかられているのが目に入った。
あっ、と思ったときには遅く、よろめいた後に視界から消える。たぶん転んだのだろうと分かった。
やがて、人混みが彼女を避けるような流れに変わる。人と人との隙間から、バッグの中身が散らばった中にしゃがみ込む姿が見えた。周囲は一瞥していくだけで、何もなかったように通り過ぎていく。
――あぁ、こういうのなんていうんだったっけ。
自分の他にも多くの他者がいる場合、誰かが何とかするだろうと率先して動こうと思わなくなる集団心理。
自分はこういうことがあると気になってしまう性質だ。
たとえこの場を通り過ぎても、あの後どうなったのだろうかとずっと気になってしまう。「新堂さんって意外とお人よしだよね」とは、いつかの玲央の言葉だ。
時間を確認するとまだ予定の時間まで余裕がある。俺は足を止めると、人の流れに逆らうようにして近づいた。
外での打ち合わせでたまに利用する、貸し会議室のあるオフィスビルを目指す。
約束の時間は9時半。今は9時を少し過ぎたところだが、オフィス街はとにかく人が多かった。
自分も玲央ほどではないが、基本は家と事務所の往復だけでほとんど外に出ていない。昼食に出ることはあっても、ほとんど事務所周辺で済ませてしまっている。
軽く人に酔いそうだな、と周囲よりもペースを落として歩く。すると自分の前方を歩くスーツの女性が、前から走ってきたサラリーマンに正面からぶつかられているのが目に入った。
あっ、と思ったときには遅く、よろめいた後に視界から消える。たぶん転んだのだろうと分かった。
やがて、人混みが彼女を避けるような流れに変わる。人と人との隙間から、バッグの中身が散らばった中にしゃがみ込む姿が見えた。周囲は一瞥していくだけで、何もなかったように通り過ぎていく。
――あぁ、こういうのなんていうんだったっけ。
自分の他にも多くの他者がいる場合、誰かが何とかするだろうと率先して動こうと思わなくなる集団心理。
自分はこういうことがあると気になってしまう性質だ。
たとえこの場を通り過ぎても、あの後どうなったのだろうかとずっと気になってしまう。「新堂さんって意外とお人よしだよね」とは、いつかの玲央の言葉だ。
時間を確認するとまだ予定の時間まで余裕がある。俺は足を止めると、人の流れに逆らうようにして近づいた。