新堂さんと恋の糸
 仕事にストイックで真面目。
 それが、自分の中で持っていた勝手な『新堂梓真』という人物像。

 実際は、自分の正体を隠したりケガした私を抱き上げたり――想定外のことをして試されているのか、揶揄われているのか……よく分からない気もする。

 (……でも、作った資料にきちんと目を通してくれたのも、誰もが先を急ぐ中で足を止めて助けてくれたのも――新堂さんだ)

 「確かに、驚く部分もありましたけど……冷めるという感情とは違います。それに、新堂さんが憧れの人だという気持ちは変わりはありません」

 それが今の正直な気持ちだった。

 新堂さんは少しだけ目を見開いて目線を逸らすと、すぐに表情を戻した。

 「……熱量が空回りしてるわけじゃないのは、分かった」

 その声は思いのほか柔らかくて、少しだけドキリとする。

 「そういうことなら、進めてもいい」
 「……え?」
 「取材の話だ」
 「えっ!?ほ、本当ですかっ!?」

 思わず立ち上がりそうになった私に、新堂さんは「ただし条件がある」と言った。
 
 「条件……ですか?」

 なんだろう、取材料を上げろとかだろうか。もしそうだとしたら、さすがに私の一存では決められない。

 「うちの事務所で働け。そこでの働きぶりを見て取材を受けるか決める」

 予想の斜め上をいく条件に、私は目を丸くした。
 
 (働く?私が、新堂さんの事務所で…??)
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