新堂さんと恋の糸
 「初めの頃は、思ってることをそのまま言えてた。ずっと憧れてたことも、取材させてほしい理由も全部。気持ち悪がられても引かれてもいいから、伝えなきゃって思ってたのに」

 でも、今はそれがまったくできない。だって、そこには純粋な憧れ以外の気持ちがあることに気づいてしまったから。

 『取材相手と編集者だから、あり得ない』と、はっきり線を引いたのは私のほうだ。

 (なのに今さら、好きでしたなんて言えるわけない)

 仕事だから、取材相手だから。そうやって自分で距離を決めたくせに、何かをするにも話すにもそのことばかり考えてしまって、そこから一歩も動けなくなった。

 (なんでだろう、こんなに好きなのに)

 私の感性を褒めて励ましてくれたり、風邪を引いたと聞いて駆けつけてくれたり、玲央くんにやり込められてしまうところだったり――いろんな新堂さんが好きだった。

 他の人のところになんていってほしくない。
 でももう、切れてしまった糸の直し方が分からない。

 「切れたわけじゃないだろ。こんがらがりすぎて、どこから解いていけばいいのか分かってないだけじゃん。だったら、一つずつ解いてけばいい。ゆっくりでいいからさ」

 そう言って、有働くんは私に持っていたカメラを渡してくれた。

 「新堂さんの話してるときの櫻井、良い顔してる」

 ほら、と見せられた液晶画面には、さっきアパレルショップの前で有働くんに撮られた私の――満面の笑顔が写っていた。

 こんな顔、もう二度とできないと思ってた。
 でも、ちゃんと“好きだ”って顔をしている私が、そこにはいた。
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