新堂さんと恋の糸
 ◇◇◇◇

 有働くんに背中を押されたものの、最後の一歩が踏み出せないまま数日が過ぎた。

 理由は簡単だ。何ヶ月も前から準備していた個展が、いよいよ目前に迫っている。
 今が一番忙しくて一番大事なときに、私なんかが連絡していいのか――そう思うと、どうしても指が動かなかった。

 (有働くんに話したら「そんなの気にすんな」って笑われるんだろうな……)
 
 それでも、自分の行動で新堂さんの負担を増やしてしまうかもしれないと思うと、やっぱり二の足を踏んでしまう。

 手帳を開くと、前にもらったレセプションの招待状が、きれいなまま挟まっていた。

 ―――行きたかった。けど、行けるはずがない。

  新堂さんが描いていた会場デザインがどう形になったのか、この目で見たい。でも次号の担当はもう麻生さんに変わってしまった。きっと今、そこにいるのは麻生さんで――私の席なんてどこにもない。

 もし現地でこの間みたいに鉢合わせしたら。
 新堂さんと杳子さんが二人で一緒にいるところをこの目で見てしまったら、さすがにダメージが大きすぎる。

 (一般公開が始まったら、チケットを取って一人で行こうかな……)

 個展が終わってすべてが落ち着いてから、新堂さんに連絡しようかと考えていた。
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