新堂さんと恋の糸
 ◇◇◇◇

 「まずは今日もお疲れ、かんぱーい!」

 ガヤガヤとした店内に、ジョッキのぶつかる小気味いい音が響いた。
 仕事終わりの一杯を楽しむ声がそこかしこから聞こえてくる。

 「そして櫻井さんは第一関門突破おめでとう!」

 園田理恵(そのだりえ)編集長がジョッキを半分ほど一気に飲み、ドンッとテーブルに置くとニコニコと私の肩を叩いた。

 「いえ、突破なんてそんな……まだ首の皮一枚つながった状態というか、取材OKがもらえたわけではないので」
 「でも次に繋がっただけで十分よ!ねぇ?」

 編集部は全部で十人。小さな部署だけど、その分結束が強い。今日のように声をかければ半分は集まるし、仕事終わりのこの時間は、私にとって少しだけ心が緩む場所だった。

 「でも泉ちゃんが事務所で働けだなんて、めちゃくちゃな条件ですよね?まだ取材が決まったわけじゃないのに」

 眉をひそめるのは、直属の上司である麻生杳子(あそうようこ)さん。
 ショートカットでマニッシュな雰囲気の、憧れの先輩だ。

 「すみません、相談もしないで勝手に……」
 「デザイナーには個性的な人が多いしね。まずは懐に入って信頼されることも大事よ。櫻井さんの熱意が伝わったんじゃない?」

 園田編集長が、食事のメニューに目を通しながら笑う。
 そう言ってもらえて、私も気持ちが軽くなった。

 「でも一つだけ主任として言っておくけど――」

 隣に座る杳子さんが、少し顔を引き締めてから私を見る。

 「でも泉ちゃん、取材対象と個人的に仲良くなるのはNGだからね?」

 私は思わずグラスを持つ手が止まる。

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