新堂さんと恋の糸
新堂さんの気持ちを疑ってたわけじゃない。
でも、どこか自信がなかった。

だから嫌われたくなくて、遠慮して、それが結局新堂さんを悩ませていたんだとしたら。

――本当にバカだ、私。

これほど思われていながら。
守られていながら。

杳子さんとの方がお似合いだったとか、二人は過去に付き合っていたのかもしれないとか。
そんなくだらないことで悩んで、小さな不安に雁字搦めになって、諦めようとして。

もっと早く気持ちを言っていればよかった。
新堂さんを、信じていればよかったんだ。

『だったら、一つ一つ解いていくしかないんじゃないの?』

「私、新堂さんのことが好きです。
憧れだからとかそういうことじゃなくて…」

ペン一本で、私が今まで見たことのない世界を作り出してしまうことが。

触れる手や紡がれる言葉の裏に、たくさんの優しさを器用に隠してしまうその不器用さが。


「新堂さんが、新堂さんであるところが好きです」


何の前触れもなくそう告げたことで、新堂さんは一瞬虚をつかれたようにような顔をして――それから少し照れたようにほころんだ。


(こんなふうにも、笑うんだ)


知らなかった一面に、また一つ好きが積み重なっていく。


< 169 / 174 >

この作品をシェア

pagetop