新堂さんと恋の糸
「あの、さっき録音のコピーって言ってましたよね?ということは元のデータがあるってことですか?」

「昨日のうちに園田さんに渡した。すぐに麻生を呼び出すって言ってたからその後詰問でもされたんじゃないか」

(編集長に?)

「でも、編集長はこの前犯人探しはしないって」

「そうなのか?謝罪に来たときから『うちの編集部と社員に泥を塗ったやつを許さない!』って息巻いてたけど。あの人、たぶん相当好戦的というか武闘派だぞ」

「ぶ、武闘派…」

確かにいつも頼もしい編集長ではあるけど。
私はふと頭の中でファイティングポーズをとる編集長を思い浮かべて、不謹慎にも笑いそうになってしまった。

「だから本当は全部解決した状態で今日のレセプションを迎えられたっていうのに、誰かさんは待てど暮らせど来ないしな」

恨みがましい目線を向けられて、私は狼狽えてしまう。

「それは…でもそれなら連絡してくれたらよかったじゃないですか」

「俺から一方的に担当を代えさせて、偶然とはいえ麻生と一緒にいるところも見られてたし、行きませんって言われるかもと思ったら連絡なんかできなかった」

「そんなこと、」

――言うはずがないのに。


「玲央くんには、いつ本当のことを言ったんですか?」

「昨日だけど、なんで?」

「今日ここに行くように言ってくれたの、玲央くんだったんです」

新堂さんがあいつか、と腑に落ちたような顔をする傍らで私は玲央くんの言葉を思い出していた。


『新堂さんは、言ってることと考えてることが必ずしも一致しない人だから』


その言葉が今、私の中にすとんと落ちる。

玲央くんが言っていた意味が、やっと分かった気がした。


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