新堂さんと恋の糸
 すると、梓真さんがデスクに置いていた冊子を手に取って私に渡す。そこには真ん中辺りに付箋がついていた。

 「開いてみて」

 私は不思議に思いながらも、言われた通りに付箋が貼られたページを開く。

 「………あっ、」

 載っていたのは『Beautiful 'Spring'』―――あのハンギングチェアだ。

 「夏にイタリアで開催される展示会(サローネ)に出展することになった。他にもいくつか出すけど、これはその公式カタログ」

 この展示会(サローネ)は世界中から多くの業界やプレス関係者が集まる大規模なイベントだ。それに出展するなんて本当にすごいことで。

 「というわけだから七月空けとけよ」
 「……と、言いますと?」
 「パートナーとして同行しろって言ってんの」
 「!?パ、パートナーって……」

 軽くフリーズしてからようやく意味を理解して、みるみる赤くなる。胸の奥がふわっと浮き上がるみたいに嬉しい一方で、別の不安も顔を出す。

 (サローネって、業界の人が世界中から集まる場所で――そこでパートナーとして隣に立つって、つまり……)

 「ほ、本当にいいんですか?そんな大事な場に、元・取材担当の私なんかが一緒に行って……仕事の邪魔にならないでしょうか」
 「いいから誘ってるんだろ」

 うろたえる私の頬を、揶揄いまじりに撫でる。

 「『Alpha』から出展する中で、それが一番の目玉だからな。モチーフになった本人がいたほうが説得力も増すし。向こうでインタビューされたら、ちゃんと話すつもりだしな」
 「……ちゃんと?」
 「俺の作品の核になってる“ある編集者”のことと、今はその人が俺の“パートナー”だってこと」

 驚きと喜び。
 嬉しさと、ほんの少しの照れくささ。

 今、私の中に交錯するさまざまな感情を言葉に表すのは難しい。
 それでもこの言葉にできない想いを届けたくて、私はありったけの力で抱きついた。

 「梓真さん…っ!!」
 「あっぶな、いきなり抱きつくなって!」
 「うー、だって…こんなのずるいです」
 「ずるいってなんだよ」
 「好きです」

 あぁそっちのほうがいいな、とおかしそうに肩を揺らす梓真さんの眼差しは、少し意地悪くも甘く優しい。
 同じ思いを抱いていると実感できる喜びと、共有できる幸せ。

 梓真さんの親指が唇をなぞるのを感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。


 Fin.
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