新堂さんと恋の糸
 すると、梓真さんがデスクに置いていた冊子を手に取って私に渡す。そこには真ん中辺りに付箋がついていた。

 「開いてみて」

 私は不思議に思いながらも、言われた通りに付箋が貼られたページを開く。

 「………あっ、」

 載っていたのは『Beautiful 'Spring'』―――あのハンギングチェアだ。

 「夏にイタリアで開催される展示会(サローネ)に出展することになった。他にもいくつか出すけど、これはその公式カタログ」

 この展示会(サローネ)は世界中から多くの業界やプレス関係者が集まる大規模なイベントだ。それに出展するなんて本当にすごいことで。

 「というわけだから七月空けとけよ」
 「……と、言いますと?」
 「パートナーとして同行しろって言ってんの」
 「!?パ、パートナーって……」

 軽くフリーズしてからようやく意味を理解して、みるみる赤くなる。胸の奥がふわっと浮き上がるみたいに嬉しい一方で、別の不安も顔を出す。

 (サローネって、業界の人が世界中から集まる場所で――そこでパートナーとして隣に立つって、つまり……)

 「ほ、本当にいいんですか?そんな大事な場に、元・取材担当の私なんかが一緒に行って……仕事の邪魔にならないでしょうか」
 「いいから誘ってるんだろ」

 うろたえる私の頬を、揶揄いまじりに撫でる。

 「『Alpha』から出展する中で、それが一番の目玉だからな。モチーフになった本人がいたほうが説得力も増すし。向こうでインタビューされたら、ちゃんと話すつもりだしな」
 「……ちゃんと?」
 「俺の作品の核になってる“ある編集者”のことと、今はその人が俺の“パートナー”だってこと」

 驚きと喜び。
 嬉しさと、ほんの少しの照れくささ。

 今、私の中に交錯するさまざまな感情を言葉に表すのは難しい。
 それでもこの言葉にできない想いを届けたくて、私はありったけの力で抱きついた。

 「梓真さん…っ!!」
 「あっぶな、いきなり抱きつくなって!」
 「うー、だって…こんなのずるいです」
 「ずるいってなんだよ」
 「好きです」

 あぁそっちの方がいいな、とおかしそうに肩を揺らす梓真さんの眼差しは、少し意地悪くもひどく優しい。
 同じ思いを抱いていると実感できる喜びと、共有できる幸せ。

 梓真さんの親指が唇をなぞるのを感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。


 Fin.
< 174 / 174 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:4

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

天才幼女セラフィーヌ、ツンデレ辺境伯様とただいま領地改革中!

総文字数/14,740

ファンタジー12ページ

第6回ベリーズカフェファンタジー小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
敏腕コンサルタントとして 数々の企業を立て直してきた私《宮川夏美》は、 ある日、職場で倒れてしまう。 そして目覚めると――五歳の幼女になっていた!? 転生したのは、 没落寸前の男爵家の令嬢・セラフィーヌ。 ボロボロの領地、莫大な借金、泣き虫な双子のお世話……と、 問題は山積み&前途多難。 そんななか後見人としてやって来たのは、 軍人上がりの辺境伯様で―― 前世のコンサルスキルを駆使して、 ちょっぴりツンデレ気質な辺境伯様と 領地改革に乗り出します! ※2025.11.20 公開
表紙を見る 表紙を閉じる
アリアはフェルディア王国の王宮付きメイド。 王太子殿下とその婚約者である公爵令嬢・エレナを心から慕っていた。 ところが、エレナが命を落としたことをきっかけに暴君と化した王太子の暴政によって、 武装蜂起した市民に王政は倒されてしまう。 そして混乱のさなかでアリアも処刑され、命を落とした―― 何度ループしても、エレナの死→殿下が闇堕ちして王政崩壊、という 悲劇的な最期を迎えてしまう二人。 (今度こそお二人には幸せになってもらいたい…!!) 敬愛するエレナと殿下の愛を成就させるため、 ループ5回目の人生も孤軍奮闘するアリア。 ところが、今回だけはどうにも展開が違う。 破滅ルートを回避すべくフラグ回収に奔走していたら、 なぜか第一宰相のセドリックに目をつけられてしまって…!? 推しカプを見守って平和に暮らしたいだけのメイドがなぜか溺愛され、 次第に王国にまつわる陰謀に巻き込まれていくお話です。
表紙を見る 表紙を閉じる
「俺と結婚する気はないか」 これは感情のない契約結婚――のはずだった。 柊木真澄(ひいらぎ ますみ) 35歳 クールな天才脳外科医 × 小野寺澪(おのでら みお) 27歳 家族思いのヒロイン 医薬品流通会社の営業職・小野寺澪は、 納品先の大学病院で天才脳外科医の柊木真澄と出会う。 冷徹で完璧主義な彼から告げられたのは まさかの契約結婚の提案だった。 「私も、この提案を利用しようと思っていますから」 お互いの利害一致で始まった新婚生活。 なのに、なぜか真澄は澪だけに甘すぎて…? 「君にとっては契約かもしれないが―― 俺にとっては、それ以上の意味がある」 その微笑みはずるいほど優しくて、澪の心をかき乱していく。 ―――――*――――― この作品は作者の創作でありフィクションです。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop