新堂さんと恋の糸

3. その呼び方はやめてください

 それから二日後、私は新堂さんに指定された住所に来ていた。

 《MINAGI BILLDING》と書かれた殺風景なビルは、一見デザイン事務所が入っているようには思えない。
 本当にここで合っているのかと心配になるけれど、エレベーター横の案内板を見るとメールと同じの名前と、六階に《デザイン事務所 Alpha》の表記がある。

 エレベーターで六階まで上がって事務所のインターフォンを押す。

 私がこのオフィスで作業する時間は十五時から十七時。この時間帯より少しでも早くても遅くてもダメ。こちらからの時間変更は基本不可。会社では夕方までに原稿チェックやメールの返信をまとめて片づけておいて、十五時ちょうどにここに来る。取材のある日はさらに調整が必要で、しばらくは綱渡りみたいな毎日になりそうだった。
 
 ここまで細かな要求は初めてだったけれど、もしこちらから何か言えば「無理ならこの話は無かったことにする」と返されるのが目に見えていたので、きっとそれくらい忙しいのだろうと納得させた。
 
 「時間通りだな、入って」
 「はい、お邪魔いたします……」

 オフィスの中は、思ったよりもずっと広かった。

 天井はスケルトンで、壁もほとんどなく、白を基調にした空間に自然光が広く差し込んでいる。コンクリートと金属の無機質さがあるのに、ヴィンテージ家具や観葉植物の配置が絶妙で、空間デザインからして美しかった。

 (シンプルだけどおしゃれだなぁ……)

 物珍しさできょろきょろと見回していると、前を歩く新堂さんが少し振り返った。

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