新堂さんと恋の糸
 「そうよねぇ、お互いのやりたいこととか生活ペースを合わせられるか……そこを乗り越えられるかが大きな壁よね」

 ビールをおかわりした園田編集長がうんうんと頷いている。

 「だから私も杳子さんと同じく、今は仕事一筋です!その点有働くんはすごいっていうか、希望の星だよね」
 「なんだよそれ」

 いきなり話を振られた有働くんが、訝しげに眉を寄せる。

 「だって有働くんが先に上京して、彼女さんが二年後に卒業して上京でしょ?遠距離を乗り越えて、しかも幼なじみ同士とか羨ましいくらいの純愛!」

 有働くんには現在同棲中の彼女がいる。一度二人の写真を見せてもらったけれど、それはもうマンガかドラマか?というくらいお似合いだった。

 「そうは言っても、いろいろあっての今だから」
 「そのいろいろを乗り越えて続いてるからすごいんだよ」
 「俺の話はいいって」

 そう言って有働くんはふいっとそっぽを向く。顔が赤いのは、お酒のせいだけじゃなさそうだ。

 氷が溶けて水っぽくなったレモンサワーを口に付けると、ヴーンッとテーブルに置いていたスマートフォンが鳴った。

 「あっ……」

 《明後日の十五時に事務所に来るように》
 新堂さんからの連絡と、オフィスへの地図が添付されていた。

 簡潔な文章を見つめているうちに、さっきまでの恋愛話のざわめきが少しずつ遠のいていく。

 (私は、この仕事が好きなんだ)

 新堂さんのデザインに憧れて、この世界に入った。どんなに忙しくても不規則でも、この仕事を続けたい。

 (絶対、取材を成功させたい)

 胸の内で固く決意しながら、私はスマートフォンを握りしめた。
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