新堂さんと恋の糸
 私は手の中でいろんな角度から見ると、手のひら馴染む丸い曲線や、側面の細かな模様までまるで製品そのものみたいだった。
 その精巧さに驚いているのを、玲央くんは面白そうに見ている。

 「模型の素材は、合成樹脂とかですか?」
 「うん、基本は合成樹脂。最近は複合材料っていって、カーボンとか木材を混ぜ合わせたものもあるから、模型にする対象によって素材を変えたりすることもある。えーっと…ほらこれとか、ちゃんと木の質感が出てるでしょ?」
 「本当だ!手触りが違いますね」

 それから私は一通り話を聞いて、仕事風景などの写真を撮らせてもらった。

 お礼を言って玲央くんの仕事部屋を出る。
 新堂さんへの取材時間まではまだ少し時間があることを確認して、私は有働くんにカメラの使い方を聞くために電話をすることにした。

 「もしもし、有働くんまだ編集部にいる?今大丈夫?」
 『あぁ、いるけどどうした?』
 「あのね、貸してもらった一眼レフのことなんだけど…」

 私はさっきうまくピントを合わせることができなかったことや、今の設定が合っているのかを確認したいことを話す。

 『そこら辺って全部設定して渡さなかったっけ?』
 「ごめん、取り出していろいろ触っているうちに分かんなくなっちゃって」
 『何だそれ、櫻井らしいわ』

 電話の向こうで笑った有働くんが、ちょっと待ってと言ってどこかへ移動する気配がする。

< 40 / 174 >

この作品をシェア

pagetop