新堂さんと恋の糸
 「ISOはいじった?」
 「えっと、今は200ってなってる」
 「じゃあそのままでいい。モードは絞り優先にしてF4かF5.6くらいに設定して。それが室内だと一番バランスがいい」

 呆れずちゃんと教えてくれるのが、有働くんの優しいところだ。

 「ありがとう、すっごく助かった!」
 『今日って夜戻ってくる?』
 「うん夕方にまた戻るつもりだよ」
 『じゃあそのときに今日撮ったやつ確認するよ。レタッチの仕方も教えないといけないし』
 「ほんと?すごい助かる!」

 そんな話をしていると、打ち合わせを終えた新堂さんが戻ってきた。私はもう一度有働くんにお礼を言ってから電話を切った。

 「私用電話?余裕だな」
 「違いますよ、同じ編集部のカメラマンです。ちょっと設定の分からないところとか撮り方のコツを聞いてたんです」
 「へぇ。まぁ、分からないまま『情熱で何とかします』って突撃されるよりはマシか」

 新堂さんは大して興味もなさそうに席に座って資料を広げている。

 (取材に他のスタッフは連れてくるなって言ったのは新堂さんのほうなのに……!)

 もちろん出された条件だから守るけれど、同行スタッフなしは初めての経験なのと、やることの多さに目が回りそうだ。私は教えてもらったことをメモしながら、心の中で愚痴を吐き出す。

 (それでも今は、このバタバタも含めて楽しい。いい記事にするためならここで踏ん張りたい)
< 41 / 174 >

この作品をシェア

pagetop