新堂さんと恋の糸
 そんなこちらの事情は気にした様子もなく「ちょうど三十分くらい時間空くけど」と声をかけてきた。

 忙しい合間の貴重な時間だ。私はお願いしますと言って、用意していた質問事項などを元にインタビューを進めることにする。

 「質問なんだっけ、デザインに日本の伝統技術を多く使う理由?」

 新堂さんが事前に渡していた質問事項のリストを見る。

 「はい、その着想というか、どういうきっかけで取り入れようとされてるのかをお聞きしたくて」
 「急にかしこまったな」
 「仕事ですから」

 新堂さんは頬杖をついて片手でペンを回しながら、そうだな……と呟く。

 「敢えていうなら違和感かな」
 「違和感、ですか?」
 「違和感があった方が人の目に留まりやすい。今はSNSでも情報があっという間に流れていくだろ?そこで何か目が留まるものをってクライアント側から要求されることも多いから、意外と昔からの技術とデザインって相性がいいんじゃないかと思ってる」

 私はそこから派生した質問をいくつかしながら、メモを取っていく。

 「取り入れる上で苦労する点はどんなところですか?」
 「どこまでデザインに落とし込むかの見極め。控えめすぎると目に留まらないし、やりすぎると悪目立ちするからそのバランス。あとは質のいい職人探しと説得だな。これが一番しんどい」

 今はコネクションもできてだいぶスムーズにいくようになったけれど、初めの頃は話も聞いてもらえず門前払いも当たり前だったらしい。

 「最初の頃は『若造が何言ってる』で終わり。そこで情熱だけぶつけても折れるだけだろ。だから数字と実績と図面を揃えて、相手が飲み込める形にしてから、もう一回掛け合った」
 「……そこまでして、どうして伝統技術にこだわるんですか?」

 気づけば、用意していた質問から外れたことまで聞いてしまっていた。私自身の“知りたい”が、顔を出す。

 「こだわってるつもりはない。ただ――無くなるには惜しい技術が多すぎる。今のやり方じゃ続かないなら違う続け方を考える必要があるなって思うだけ」

 それははからずも、私が感じていたことと同じだった。淡々としているのに、言葉の温度は不思議と冷たくない。

 (やっぱり、この人のデザインが好きだ)

 ペンを走らせる手に、自然と力が入る。
 
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