新堂さんと恋の糸
 「新堂さんの作品って海外で先に人気が出ましたよね?海外からはメールでオファーが来るんですか?」
 「昔はそうだったけど、今はエージェントがいてそこを通してから話をもらってる。国内の仕事が増えてからはそうしないと捌ききれないから」

 今は国内外合わせて四十件ほどの案件を抱えているという。それをたった二人で回しているなんて信じられない。

 (私も今別件のヘルプに入っているけれど、たった二つだけでもテンパりそうなのに)

 「…アイデアが浮かばなくなるかも、とか不安に思うことはないんですか?」

 私はふと浮かんだ疑問を投げかける。この前の話だと週に二、三回はプレゼンをして毎回いくつもの案を出すと言っていた。それを繰り返していて、アイデアが枯渇してしまうかも、という恐怖心のようなものはないんだろうか。

 「無いな」
 「な、無いんですか?」

 間髪入れず返ってきた答えに驚いてしまう。

 「クライアントの話を聞けばその場でいくつかは浮かぶ。昔のボツ案やアイデアから組み替えることもできるしな。思考を止めなければ無限に……とまではいかなくても生み出せる」

 正解に辿り着くまで、いろんな引き出しを開けながらひたすらアイデアを出し続ける。ずっと止まらずに常に動き続けている――まるで思考の海を泳ぐ回遊魚みたいだな、思う。
 考えていないと、デザイナーとしての新堂さんは、新堂さんではないのかもしれない。

 「……いいな、それ」
 「はい?」
 「思考の回遊魚。ちょうど今、個展会場デザインのコンセプト考えてたんだけど、それ使えるかもしれない」

 何か面白いことを思いついたとき、新堂さんは一瞬子どもみたいにいきいきした顔で笑うことに、最近気がついた。
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