新堂さんと恋の糸
 新堂さんはデスクの引き出しから取り出した紙に、会場の図面を描き始める。
 前にデザイン画を見たときも思ったけれど、線に迷いがなくてすごく綺麗だ。サラサラと流れるようにペンから紡がれていくのを見ながら、やっぱりプロなんだと感嘆させられる。

(ずっと考え続けることを、こんなふうに当たり前みたいに言えるのって――やっぱり、すごくかっこいいな)

 でもそれだけじゃなくて、それを生み出す新堂さんの手そのものが綺麗だなと思った。自分の手とペン一本で、昨日までこの世になかったものが生み出されるのはすごいし、まるで魔法のようだと思う。

 「見すぎ」
 「あっ、すみませんつい」
 「……櫻井ってさ、手フェチなの?」
 「はい??」

 手フェチ?思ってもいなかった単語が飛び出して、私は面食らってしまう。

 「初めて会ったときも、俺の顔より手ばっかりじろじろ見てた」

 もしかして、私が転んだときに手を差し出してくれたときのことだろうか?

 「確かに指が長くて綺麗だなぁと思って見惚れてしまったような気がしますけど…」

 でも他の人ではあんまり思ったことないから、フェチなのかと言われるとそういうわけではないと思う。そんなことを真面目に考えていると、新堂さんはますます怪訝な顔をした。

 「……はぁ」
 「どうかしましたか?」
 「その思いついたことを何でも口に出す癖やめた方がいい、というかやめろ」
 「えっ、え??」

 (……それは、私に喋るなと?)

 「そろそろ三十分経つな。玲央(あいつ)が出て来たらこれの模型作るように言っといて」

 描き終えたラフ画を渡される。そのまま席を立つ新堂さんに、私も慌てて立ち上がった。

 「あの、今のってどういう意味ですか?」
 「さあな、あとは自分で考えろポメ子」
 「呼び方戻ってません!?」

 それだけ言い残すと、頭の中がハテナだらけの私を残して新堂さんは部屋を出ていってしまった。
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