新堂さんと恋の糸
 何だろうと思いながらついていくと、玲央くんの仕事部屋に新堂さんもいた。

 「先週完成した」

 そう言って新堂さんが見せてくれたのは、内装デザインの模型だった。

 「これ、この前描いていた個展会場の……?」

 個展の会場であるギャラリーの一階と地下一階の二フロアを使った広い空間。模型も二階層になっている。流線形の壁が個展の各テーマごとにエリアを区分していて、その間を誘導するように魚が泳いでいるのは、この前描いていたデザイン画そのものだった。

 「……回遊魚、本当に採用してくれたんですね」

 私が何気なく口にした一言が、こうやって形になって残る――それが嬉しくて、胸の奥がじんわり熱くなった。

 「まだ検討段階だけどな。初めは壁とか床に絵を描く想定だったけど、映像で投影しても面白い気がしてる。ただそうすると照明との兼ね合いをもう少し詳細に詰めないと」

 模型を見ながらも、やっぱり新堂さんの思考は止まることない。

 (もし実際にこれが会場で実現されていたら、感動するだろうな……)

 平面だったアイデアが立体化してリアルになると、言葉で言い表せない高揚感が湧き上がってくる。クライアントも模型や商品のサンプルを見せられたとき、こういう気持ちになるのかもしれないなと思った。

 「ようやく見せられてよかったですね、新堂さん?」

 玲央くんはふふっといたずらっぽく笑う。

 「先週から早く完成させろってうるさくてさ。それでようやくできたと思ったら、今度はポメ子さんが全然来なくなっちゃったから、もう機嫌が悪いのなんのって」
 「玲央ちょっと黙ってろ」
 「え?えっと、なんかすみません…?」

 顔をしかめた新堂さんはそっぽを向くけれど、ふと何かを思い出したようでこちらに目を移した。
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