新堂さんと恋の糸
 「そういえばこのあと十一時から打ち合わせあるけど、一緒に出るか?」
 「えっ、それって同席してもいいってことですか?」
 「クライアントからOKも出たから。撮影もしていいって」

 新堂さんが、わざわざ先方に許可取ってくれたのだろうか。

 「もちろん出ます、同席させてください」

 玲央くんはというと、「俺はここに(こも)っておく」とドアを閉めてしまって、新堂さんはやれやれと溜息をついた。

 私は新堂さんから打ち合わせ相手のクライアントと、ここまでの打ち合わせの流れを聞いた。打ち合わせまであと二十分ほどなので、私は急いで取材の準備を始める。

 今日のクライアントは、最近若者に人気のあるインテリア雑貨ブランド。某男性アイドルが『自宅のインテリアをこのブランドで揃えている』と公言してから、高価格帯ながらファンを中心に人気に火がついて、新作を出せば即完売するという人気ブランドだった。

 予定時間の五分前に到着したクライアントは三名。すでに何度も来ているからか、雑談をしながら慣れた様子で打ち合わせスペースへと向かう。

 「それにしても珍しいですね、新堂さんが取材を受けられるなんて」
 「この人の押しが強くて、根負けしたんです」

 そう言って新堂さんが私のほうをちらりと見た。その目には少しだけ冗談の色を含んでいる。

 「はは、私たちと同じく粘り勝ちですね。断られてもオファーし続けて、やっと受けていただけましたから」

 ブランドの統括マネージャーだという男性に話を振られて、私もそうですねと話を合わせながら頷く。
 言葉の選び方と雰囲気のせいか、相手の懐に入るのがうまそうな人だなと思う。年齢は新堂さんと同じくらいか少し上。肩書きから想像するよりも若い人だった。
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