新堂さんと恋の糸
 アイスブレイクのあと、新堂さんは用意していた新しいサンプルを出して、順番にそれぞれのコンセプトや特長などを説明していく。

 私は隣でメモを取ったり、邪魔にならないようにしながら打ち合わせ風景の写真を手早く撮影した。最初はもたついていた一眼レフの扱いも、だいぶ板についてきたような気がする。

 プレゼンの合間にも、クライアントからはサンプルを見ながら要求が飛んでくる。新堂さんはそれらの話を聞きながら常に手を動かしていて、瞬時に思いついたアイデアを描き出していた。

 今まで事務所で一緒に過ごしても、こういう姿を見る機会はなかった。相手の要求を一歩引いて受け止めてから、求める解決策を提示していく――その姿はプロそのもので。

 (かっこいいな……)

 いつのまにか目が離せなくなっていることに気がついて、慌てて首を振る。

 (何考えてるんだろう、集中しないと……!)

 自分のメモに向き直って、雑念を振り払うようにペンを走らせた。
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