新堂さんと恋の糸
 「派手にやってるから何ごとかと思ったら、そういうことだったんだ」
 「全然笑いごとじゃないんですけど……こっちは本気で怒られたんですよ?」

 笑ってない目も怒気を含んだ声も、本当に怖かったんですから。
 そう言っても玲央くんはますます笑うばかりだった。

 「あーおかしい。久しぶりにこんなに笑ったかも」

 玲央くんが笑った顔は天使みたいに可愛いけれど、何か含んだような目でこっちを見る目はやっぱり小悪魔みたいだ。
 私は玲央くんを問いただすのは諦めて、デスクの上を片づける。

 「ポメ子さん、もう帰っちゃうの?」
 「今日はこの後別件でヘルプ頼まれている仕事があって、そっちに行かないといけないんです」
 「そっか、大変だね」

 正直今は取材と原稿作成でかなりヘトヘトなのだけれど、杳子さんから『どうしてもお願い!』と頼まれたら断れない。

 「さっきの話だけど、難しく考えることないよ」
 「……はい?」
 「新堂さんは、言ってることと考えてることが、必ずしも一致しない人だから」

 つまりそれは、あまのじゃくだということだろうか。

 「ポメ子さんが『編集者』としてだけじゃなくて、『櫻井泉個人』として見られてたのが気に入らなかったんだと思う。たぶん、新堂さんなりの守り方だったんだよ思うよ」
 「え、ええぇ……?」

 にわかには飲み込めない言葉に、私は間抜けな声を出してしまう。
 なのに玲央くんは私のツッコミをさらっと受け流して、一人で納得してしまっている。

 何なのもう。
 新堂さんも新堂さんなら、玲央くんも玲央くんだ。

 「あーあ、でもこれから大変になるね」

 困惑する私をよそに、玲央くんはますます面白そうに笑みを深める。
 その本気か冗談か分からないトーンに、私はなんて答えたらいいのか分からなかった。


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