新堂さんと恋の糸
 それからいくつかの展示を見回っていって、ようやくメインの巨大水槽まで辿り着いた。

 大海を再現したというこの水族館最大の水槽は、高さが天井近くまであるだけでなく奥行きもかなり広い。大型の魚なども優雅に泳ぐ姿に、見ている自分も海の中にいると錯覚するくらいだった。

 「これはでかいな」
 「本当ですねぇ」

 ――こんなに大きな水槽だったら、人魚だって暮らせちゃいそう。

 私は大好きな人魚姫の映画を思い出してそんなことを呟いてから、しまったと思う。
 案の定、新堂さんを見ると訝しげな顔をしていた。

 「……また変なことをって思ってません?」
 「勝手に人を毒舌キャラにするな」
 「ならいいんですけど……あ、向こうの辺りで泳いでいるのマグロですかね?あっちはイワシの大群ですよ、すごい!」

 大きな水槽の中でイワシの群れが一つの渦のように泳ぎ回っている。一匹一匹は小さいのに、まるで大きな生き物にうごめいていて、その迫力にしばし圧倒された。

 「この水槽は海の水を直接くみ上げていて、自然に近い環境で魚たちが泳げるようにしています。この水槽では、およそ三万匹のイワシが泳いでいるんですよ」

 ちょうど飼育員さんの解説が聞ける時間帯だったようで、魚博士みたいなコスプレをした飼育員さんが水槽の前で丁寧に解説してくれる。

< 59 / 174 >

この作品をシェア

pagetop