新堂さんと恋の糸
 「あの、新堂さんはインテリアのデザインはしないんですか?」
 「家具のデザインは受けてない」
 「それはどうしてですか?」
 「これは取材の一環?」
 「あ、いえ、そういうわけでは…」

 単純に、私がずっと聞きたかったことだった。取材させてもらうようになって、たくさんのラフ画やサンプルを見させてもらったけれど、インテリア家具のデザインは一つもなかったから。

 「身も蓋もないことを言うなら……割に合わないから」

 意外な答えに私は目を瞬く。

 「世の中にインテリア家具メーカーはたくさんある。でもそのほとんどは自前のデザイナーに任せて外部に頼むところはほぼない」

 各ブランドのスタイルが確立されていて外部へ依頼する必要がない――というのがその理由らしかった。

「じゃあどこがデザイナーに頼むのかっていうと、海外で展示会に発表しているような家具メーカー」
「えっと、サローネでしたっけ?」
「そう。そのクライアントの依頼で一脚十万円の椅子をデザインすると仮定する」

 新堂さんはいったん言葉を切って、足を組み直す。

「サロンで発表するとなると、一年から二年単位のスパンでかかる。その間に何度もデザインが決まるまでやり取りを繰り返す。サンプルを作って海外に送り試作を重ねて、時には自分も現地へ渡航する」

 新堂さんが一つずつ指折りをする。
 聞いているだけで膨大な、気が遠くなるほどの時間と作業量だ。
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