新堂さんと恋の糸
 それから、教えてもらった通りにエレベーターホールの先に進むと『総合医務センター』の看板が見える。破れたストッキングも替えたかったので、新堂さんには先に会議室に行って待っててもらうことにした。

 中には白衣を着た産業医の女性がいて、私の様子を見ると一目で状況を察してくれた。
 
 「お手数をお掛けしてすみません」
 「いいんですよ、そのための医務室ですから」

 膝を派手に擦りむくなんて、大人になってこんなケガをするとは思わなかった。

 「ところで、さっきの男性はもしかして彼氏さん?」
 「かっ!?ち、違います!たまたま助けてくれた人で……」
 「そうなんですか?あなたのことすごく心配していたみたいだから、てっきり」

 私はぶんぶんと首を振って全力で否定するのと、傷口をぽんぽんと消毒されたタイミングがかぶって、私は思わず顔が引きつる。少し沁みるけど我慢してくださいねーと優しく言われるけれど、その手つきはなかなか容赦がない。

 私が事情を説明すると、女医さんは納得したように頷いた。

 「そう、人にぶつかって…それは災難でしたね。でも、初対面であんなふうに迷いなく助けてくれる人なんて、そう多くはないですよ」
 「……私はすっごく恥ずかしかったですけど」

 女医さんはふふっと笑うと、右膝にガーゼを、右手には絆創膏を丁寧に張ってくれた。

 「はいおしまい。一晩経って他の箇所が痛んだりするようだったら、ちゃんと病院に行くようにしてくださいね」
 「分かりました、ありがとうございました」
 「それではお大事に、それから頑張ってくださいね」

 私はお礼を言って、医務室を後にする。 
 応急処置を施してもらって安心したせいか、先ほどまでの痛みはだいぶ和らいだ気がする。

 それからエレベーターに乗ると、新堂さんの待つ十五階の第三会議室へと急いだ。
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