新堂さんと恋の糸
 結局、私は目的地であるセントラルタワービルのエントランスに、抱きかかえられた状態で到着した。

 「今何時?」
 「えっと、九時二十分です」
 「十分前か。会議室は十五階だったよな」

 ここは先方に指定されたオフィスビルで、十五階が貸し会議室スペースになっている。

 (あれ、私この人に十五階だって話したっけ……?)

 そのままビルの中へ入って受付へ向かおうとしたので、さすがに下ろしてもらった。

 「あの、ここまで送っていただいたありがとうございました」
 「送っていただいてって……まだ分からない?」
 「……え?」

 どういうこと?―――少し呆れたような目で見られて、私は頭の中がハテナマークでいっぱいになる。
 そんな私のことなどお構いなしに、男性は受付へと進むと衝撃的な一言を発した。

 「すみません、九時半から貸し会議室を予約している新堂ですけど」

 (―――え、今なんて……?)

 「お待ちしておりました。そちらはお連れ様…でよろしいでしょうか?」
 「は、はいっ、文董社の櫻井と申します……」
 「新堂様と櫻井様ですね。こちらが来客用の入館証となります。お帰りの際は受付へご返却ください」

 そうして受付の女性から入館証を渡される。

 「あと、どこかで絆創膏と消毒液って借りられます?この人、ケガをしていて」
 「エレベーターホールの先に医務室がございます。産業医が常駐しておりますのでお声がけください」
 「ありがとうございます。じゃあ先にそっちに行くか」

 そう言われても、正直私はそれどころではない。

 私は目を丸くたまま、眼前の男性の顔を呆然と見つめてしまう。

 「嘘……、本当に、あの新堂梓真さん…?」
 「やっと気づいた? 君が泣くほど会いたかった打ち合わせ相手」
 「!?な、泣いてはいませんっ…!」

 間に合わないかもしれないと、少しパニックになりかけてたのは事実だけれど。
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