新堂さんと恋の糸
 その低い声に、空気が一瞬で凍りついた。
 藤城の口元がひくりと歪む。

 「……へぇ。ずいぶん言うようになったじゃねぇか、新堂」

 「当然だ、お前がやったことは“裏切り”じゃ済まない。それに俺だってあの頃とは違って『いろんな手段』を持ち合わせている」
 「手段……?」

 藤城が目を細める。新堂さんは少しだけ顎を上げ、冷静な声で続けた。

 「あの件については、お前がラフ画を売った相手のデザイナーとのつながっている証拠を保管してある。俺がどれだけ損害を受けたかの算定資料もだ。法的措置を取ろうと思えば、訴えることだって可能だ」

 藤城の顔が強張った。

 「ふざけんな……デザイナーごときが、俺に指図してんじゃねぇよ!」

 ドンッ、とデスクが蹴り上げられ、書類が大きく舞い上がった。

 「やめてくださいっ……!」

 止めようとした私の声は、バサバサッと本が床に落ちる音がした。

 驚いて振り返ると、玲央くんが真っ青な顔で立ち尽くしていた。
 床に落ちた本にも目もくれず、いやもしかしたら腕から落ちたことにも気づいていないのかもしれない。肩だけが小さく上下していて、頬からみるみる血の気が引いていく。

 ―――玲央くんの様子がおかしい。

 それに一早く気づいたのは、新堂さんだった。

「玲央、お前は部屋に戻ってろ……!」

 けれどその声は聞こえていないのか、一点を見つめたままだった玲央くんの体が徐々に震え始める。ひゅうひゅうと呼吸が荒くなっていくのが聞こえて、私はあっと思い至る。

 (これは、過呼吸だ…!)

 そう気づいて駆け寄ったときには、その場にうずくまるようにして倒れ込んでしまった。

 「玲央くん…!?」
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