新堂さんと恋の糸
 玲央くんはデスクのミネラルウォーターに手を伸ばして勢いよく飲む。はぁっと息をつくと少しだけ笑顔を見せた。

 「うちは代々画家の家系でさ。祖父さんはそこそこ名の知れた画家なんだけど、父さんは美大を出ても食べていけなくて、今は細々と絵の教室を開いてるの」

 子どもの頃から絵の才能があることを見抜いたお父さんが、玲央くんにかけた期待は大きかったらしい。

 「部活も習い事も友達と遊ぶことも全部ダメ、そんな暇があるなら絵を描けが口ぐせでさ。学校から家に帰るのが本当に嫌だった――『子どもに自分の夢を乗せすぎる親』の典型だよね」

 (私は親に才能がないと見限られてたけど、玲央くんは期待をかけられすぎていたんだ……)

 「その頃俺は絵を描くことよりもデザインが好きで、でも父さんは大反対だった。消費されていくだけのくだらないものだとか、画家になれない落ちこぼれがなる職業だとか。画家になれなかったのは自分のくせにプライドばっかり高くて」

 コクッともう一度ミネラルウォーターを口に含む。

 「でも高校になったときにとうとう爆発して、反対を押し切ってデザインの専門学校に通ったの。家も出たし父さんとは連絡も絶った。それがあの日……父さんが教室に怒鳴り込んできた」

 そのときのことを思い出したのか、玲央くんが胸のあたりをぎゅっと押さえる。

 「ものすごい形相で掴みかかってきて怒鳴るわ喚くわ、ひどい有り様で。先生が止めてくれたけど、気づいたら過呼吸になってた」

 私は思わず背中をさする手に力をこめた。

 「それ以来いきなり人が来るとか予定外のことが起きると、さっきみたいに身体が反応しちゃうんだよね」
 「新堂さんは、全部知っているんですか?」
 「知ってるよ。だって授業をしていた先生が――臨時講師で来てた新堂さんだから」
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