新堂さんと恋の糸
 「……あぁ、疲れた」

 さすがの新堂さんもぐったりとした様子で、眼鏡を外して目の辺りを押さえている。

 「…そういえば、この後のスケジュールは?」
 「全部リスケした。今日はもう店じまい」
 「……本当にすみませんでした」
 「なんで櫻井が謝る」
 「私が、ちゃんと確かめなかったから…インターフォンが鳴って、モニターに誰も見えなかったときもっと警戒するべきだったんです」

 私がもっと用心していれば。
 そうしたらこんな大ごとになることも、玲央くんが苦しむこともなかったのに。

 私は玲央くんの前で言えなかったことを吐き出すと、新堂さんが大きく息をついた。

 「違うだろ」

 正面から新堂さんと目が合う。
 眼鏡をかけていない、素の新堂さんの顔を見るのはこれが初めてだった。

 「本当に言いたいことはそれじゃないだろって言ってんの」

 何を言われているのか理解できていない私の手を、新堂さんがそっと取った。

 (あ…っ、)

 自分の右手が、震えている。

 「怖かったんだろ、ずっと」

 知らない人が入ってきて威圧されたこと。
 目の前で玲央くんが倒れたこと。

 「…こ、こわかったです、」

 怖かったんだ、私。
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