新堂さんと恋の糸
 「そんなふうに弱気なの新堂さんらしくないですよ?」
 「……人を何だと思ってんだよ」

 何か言わなくちゃと、私は言葉を探す。

 「玲央くんの仕事を取材させてもらったとき、すごく楽しそうに話してくれました。それにさっきだって……新堂さんを見てると頑張れるって言ってました。だから、間違ってなんてないと思います」
 「なにそれ、慰めてくれてんの?」
 「そういうことになりますかね……?」

 椅子に座った新堂さんと、立ったままの私。
 いつもの身長差が逆転して下から見上げられる視線にどきりとする。

 掴んでいた右手を逆に掴み直されて、ぐいっと引っ張られる。不意打ちに驚いて、咄嗟に空いている左手で新堂さんの肩を掴んで、倒れ込むのを免れた。

 「…し、新堂さんっ?」

 右手の甲を緩く親指でなぞる感触に思わず見上げると、熱を帯びた目と目が合った。

 ほっそりとした輪郭と形の良い鼻や口、長い睫毛、水気の多い瞳。
 いつもと違う知らない一面を見たようで、射すくめられたように体が動かない。

 RRRR――と、スマートフォンの着信音が響いたのはそのときだった。

 音の発信源はどこだろうと考えて、デスクに置いた私のバッグの中だと分かる。

 「……出たら?」
 「は、はいっ」

 冷静な声音に、私は弾かれたように我に返る。

 (……キ、キス、されるかと思った)

 よぎった考えを振り払うように、私は新堂さんから距離を取ってバッグを掴む。

 離れていくことに物寂しさを感じたのはほんの一瞬で、私は着信音が切れないうちに急いでスマートフォンを取り出すと、通話ボタンを押した。

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