新堂さんと恋の糸
着信は、杳子さんからだった。

「も、もしもしっ、」

「泉ちゃん?大丈夫?なんか慌ててるみたいだけど」

「大丈夫ですっ、えっと何でしょうか?」

「今って新堂さんの事務所?実はね、急で悪いんだけど、この前にみたいにまたヘルプを頼みたくて…」

私は杳子さんからの連絡事項を手帳に書き留めて電話を切る。

「会社から?」

「はい、杳子さんからでした」

「ようこ?」

「えっと、麻生さんっていう私の直属の上司です。今年編集部に配属になってから可愛がってもらってて私は杳子さんって呼んでるんですけど。別件の取材のヘルプに行ってほしいっていう指示で…すみません、私もう行きますね」

私がデスク周りを片付けながらバッグに荷物をまとめていると、新堂さんはデスクの上に置いていた眼鏡をかけてから立ち上がった。

「帰りは遅くなんの?」

「?そうですね、現場もちょっと遠いので終わるのは21時近くになる気がします」

「家着いたら連絡入れて」

「…?え?な、なんでですか…っていった!」

頰を軽くつねられて抗議の視線を送るもどこ吹く風で、すっかりいつもの新堂さんに戻っている。

「心配だからに決まっているだろ、言わせるなバカ」

もしかして、今日のことがあるから心配してくれているんだろうか。

「か、帰ったらメールします」

「電話」

「分かりました、電話します」

私が頷くと、ようやく新堂さんは満足そうに目元を緩めたのだった。


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