新堂さんと恋の糸
 「やだ!ちょっと熱あるんじゃない!?」

 立ち上がってデスクの向こうから私の額に手を当てた編集長が、驚いた声を出した。そう言われると、少しぼーっとするような気がするけれど、そんなに?

 「そういえば、昨日の夜から動悸がするというかゾワゾワするというか……」
 「熱を出すのは何かしら原因があるんだから軽く考えちゃ駄目よ!あ、有働くんいいところに!」

 編集長は、午前中の仕事を終えて編集部に戻ってきた有働くんを捕まえた。

 「今日この後予定ある?」
 「この後ですか?十六時の打ち合わせまではフリーですけど」

 まさか昼から飲みの誘いですか?と訝る有働くんに、違うわよ!と軽く蹴りを入れるのを見て、私はぼぅっとしながらもおかしくて笑ってしまう。

 「櫻井さんを病院に連れていってあげてくれない?社用車使っていいから」
 「病院?櫻井、熱あるの?」

 デスクに機材一式を置いた有働くんが目の前に駆け寄ってくる。

 「えっ、あの、病院なら一人で行けますから、」
 「駄目、病院行ってそのまま家まで送ってもらいなさい。今日のスケジュールは私が調整しておくから。パソコンは置いて帰ること、いいわね?」

 これは編集長命令!と言われてしまったらそれ以上言えず、従うしかなかった。
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