新堂さんと恋の糸
 (私、幻覚を見るほど重症なの?)

 だって、私の部屋の前に新堂さんがいるわけがないのに。しかも見舞いって?部屋は散らかっているし、帰ってから脱ぎ捨てたスーツもそのままだ。

 (……む、無理!!この部屋に上げるなんて)

 この場をどう切り抜けるべきか考えている間にも、「おい、開けろ」と言いながらドアを叩く音がする。このままだと確実に近所迷惑になってしまいそうだ。私はとうとう観念して、そろりとドアを開けた。

 「それが見舞いに来てやった人間にする態度か?」
 「す、すみません……言い訳させていただくと、部屋が片付いてなくて本当汚いんです、ですから……」
 「別に慣れてるから気にしない」

 確かに、前は事務所の中も散らかり放題だったけれど、それとこれとはわけが違う気がする。

 「送ってくれたっていう同期は?」
 「有働くんですか?送ってくれたあと帰りましたよ。次の仕事もありますし」
 「……なんだ」
 「あの、どうかしましたか?」
 「別に。で、ここまで来た俺に帰れっていうわけ?」

 結局私は根負けして、新堂さんを部屋に招き入れることになってしまった。
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