新堂さんと恋の糸
 熱のせいで、頭が余計にぼんやりして働かない。
 キッチンでせわしなく動く新堂さんの姿を見つめながら、新堂さんが家にいるという非日常を改めて認識する。

 電子レンジの温めが終わった直後に「うわ、」とか「あっちぃ!」などが聞こえて心配になって声をかけたけれど、とにかく座っているようにと強めに言われたのでおとなしく待つしかない。
 しばらくして、湯気が立ちのぼるおかゆと麦茶の入ったグラスがテーブルに置かれた。

 「……すみません、ありがとうございます」
 「ちょっと温めすぎたかもしれないから、気をつけろ」
 「はい、いただきますね」

 私は木のスプーンに少しだけすくって冷ましながら食べる。お昼から食べていなかったせいもあってか、少し塩気のあるおかゆが美味しかった。新堂さんは少し安心したように笑ってから、自分用に買ってきたというおにぎりを食べ始めた。

 「そういえば今朝、弁護士から連絡があった」
 「弁護士?あ、もしかしてこの前の……?」

 この間事務所に押しかけてきた、藤城という男。

 「あぁ、向こう側と示談が成立してこっちの条件や要求もほぼ通ったってさ」
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