新堂さんと恋の糸
 弁護士さんの話では、本人は最近フリーライターとして鳴かず飛ばずで焦ったゆえの行動だったらしい。今回の件で契約中の出版社に警察から連絡がいったことで契約解除されて、相当堪えた様子だったそうだ。

 「示談金とは別に慰謝料の支払いと、過去に撮影した画像も全削除。残したままにして再利用できないよう誓約書付き」
 「……よかった、これで終わったんですね」

 裏切られたことやされたことは消えないけれど――ずっと新堂さんの中で残っていた苦いものが、これで少しでも軽くなったらいいなと思った。

 「慰謝料振り込まれたら櫻井にも渡すからな」
 「だめですよ、会社の規定で個人で金銭は受け取れませんから。どうしてもっていうなら、今度私と玲央くんにお昼ごちそうしてください」
 「そんなんでいいのかよ」

 そんな話をしていると、あっという間におかゆを食べ終わった。食器がよけられて、代わりに風邪薬を渡される。

 「薬ってこれだけ?」
 「はい。解熱剤は処方されたんですけど、高熱でどうしても眠れなかったら飲むようにって言われたので」

 熱はあるけれど眠れないほどではないので、飲むのは市販の風邪薬だけ。
 私からグラスを受け取った新堂さんは、空になった食器を持って立ち上がった。片付けだけでも、と思ったけれど強制的にベッドに寝かされてしまう。

 シンクから水が流れる音を遠くに聞きながら、私はだんだんと目が重くなっていった。
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