新堂さんと恋の糸
 ◇◇◇◇

 目を覚ますと、私の身体はすっぽり布団の中にくるまっていた。何度か瞬きを繰り返すと瞼が重い。寝起きでまだ頭はぼんやり霞みがかっていて、視界もぼやけている。

 (そうだ、風邪を引いていたんだっけ……それで、新堂さんがお見舞いに来てくれて、)

 曖昧な記憶を辿っていると、ふと移した視線の先には見覚えのある背中とテーブルの上に広がる紙の山。

 「新堂さん…」

 私は体を起こすと、起き上がった勢いでぐらついた頭を支えながら声をかける。

 「あぁ、起きた?」

 テーブルで何かを描いていた新堂さんが振り向くと、それらをすぐにガサっとひとまとめにしてバッグに片付けてしまったので、何の画だったのかはよく見えなかった。

 「何か描いていたんですか?」
 「まぁそんなところ。それより体調は?顔色は少し良くなってる感じだけど」

 まだ身体の関節がところどころが鈍く痛むけれど、あの朦朧とするような熱っぽさはましになっている気がする。

 「もしかして、ずっといてくれていたんですか?あれ、今時間って…?」
 「今?あと少しで夜の十二時だな」
 「え、十二時!?」

 枕元に置いていたスマートフォンを手探りで見つけて確認すると、確かにもうすぐ日付が変わろうとする時間だった。

 「新堂さん終電は!?帰れなくなっちゃいませんか?」
 「なければタクシー使えばいい」

 慌てている私をよそに、新堂さんは特に気にした様子もなく落ち着き払っている。

 「でも、この時間だとこの辺りあんまり車通りもないですし……つかまるか分からないですよ?」
 「じゃあ……一晩ここにいてもいいのか?」

 やや冗談めかした提案に、私は目を丸くする。
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